何があった?

商工中金は、金融危機や震災などの影響を受けた中小企業等を支える「危機対応業務」の指定金融機関として、一定の要件を満たす企業へ融資を行っていました。融資の要件確認には、売上高や利益の減少、雇用維持などを示す試算表や資料が使われていました。

2016年10月、鹿児島支店で、融資稟議に使う試算表の改ざんなどが多数発覚しました。商工中金は同年12月に外部弁護士3人による第三者委員会を設置。調査の途中では、2014年末に池袋支店で試算表の自作・改ざん疑義を把握しながら、翌年の社内調査で110口座の改ざんと危機要件充足性を「問題なし」とし、内部規定違反として処理していた事案も見つかり、調査範囲が広げられました。

2017年4月25日に公表された報告書は、危機対応融資220,945口座のうち27,934口座を調べ、760口座で不正を認定しました。ここでいう「口座」は融資の件数で、同じ顧客に複数ある場合もあります。不正行為者は99人、不正が認定された支店は35支店でした。

この報告書で気になった12か所

不正件数の集計よりも、現場で実際に何が行われていたのかを追います。紙の試算表をハサミとノリで加工するところから、Excelで一から試算表を作り、共有フォルダで様式を渡し、本物の資料を捨てるところまで。手口は飲み会や研修会のロビーで話題になり、支店をまたいで「普通」の感覚まで違っていました。

さらに報告書は、2014年に池袋支店で疑義が表面化した後、本部が110口座をどう調べ、どのような質問票や資料差し替えを経て改ざんと危機要件充足性を「問題なし」としたのかも詳しく記録しています。

出典のページ番号は報告書本文に印字された番号です。本文は155ページまであり、表紙・目次・別紙を含むPDF全体は172ページです。

付箋 01

数字を切り貼りしたら「タテ算、ヨコ算」が合わない。それでも稟議は通った

試算表の金額を紙の上で切り貼りする手口では、一部分だけ数字を変えるため、合計が合わなくなることがありました。各項目を足しても総売上高と一致しなかったり、前月残高や当月の借方・貸方から計算した数字と当月残高が一致しなかったりする例です。

それでも、稟議の決裁では、危機要件の判定に必要な数字と試算表の該当箇所だけを照合し、試算表全体を検算しない上長が多かったと報告されています。

そのため、切り貼りで試算表の中の計算が崩れていても、発覚せずに稟議を通っていました。

報告書は、こうした紙の加工とは別に、Excelなどで試算表そのものを自作する手口も確認しています。

確認された事実
付箋 02

手口は飲み会や喫煙所で共有。「正直者がバカを見る」という空気もあった

鹿児島支店では、不正の存在自体が営業担当者の間で知られていたと第三者委員会は認定しました。割当の達成に追われる中、飲み会や喫煙所で、危機要件に合うよう資料を変えれば稟議が通るという手口を共有し、それぞれが実行に移していました。

紙の試算表を自席でハサミとノリを使って加工したり、Excelで自作したりする姿を、同じフロアの別の担当者が目にすることもあったとされています。

不正をしないため割当を達成できない職員について、周囲が「正直者がバカを見る」と評するような風潮まで確認されました。

一方で、「そういうことは嫌いだからやらない」と拒んだ職員もいました。委員会は、不正が多発した結果「みんなやっている」という意識が生まれ、それがさらに規範意識を下げる負の連鎖になったと整理しています。

委員会の指摘関係者の説明
付箋 03

「試算表自作の時間も含めてあと3時間」。上司は知っていたという担当者側の説明

鹿児島支店の不正について、第三者委員会は、課長・次長・支店長が気づかなかったのか、黙認したのか、あるいは指示していたのかをヒアリングしました。

不正を行った営業担当者からは、「当然気づいていたと思う」「改ざんをしろとは言われないが、何とかしろと言われた」といった説明が出ました。

ある担当者は、課長に「試算表自作の時間も含めてあと3時間で稟議書を上げます」と伝えたこともあるが、何も言われなかったと説明しました。

これに対し、ヒアリングを受けた課長・次長・支店長の多くは認識や関与を否定しました。委員会は、個別の上司について黙認や指示を客観証拠で裏付けることはできないとした一方、当時の状況や証言から、課長や次長の多くが不正に気づきながら黙認していた可能性が高いと評価しています。

関係者の説明委員会の指摘
付箋 04

顧客になりすまし、不足した利息を自分で入金した職員もいた

これは危機対応融資そのものの不正ではありません。第三者委員会が、同じ割当プレッシャーから生じた別の出来事として掲載した職員の説明です。

ある営業担当者は月末に予定していた案件を落とし、別の顧客に頼んで当座貸越を利用してもらいました。しかし説明が十分に伝わっておらず、翌月初の返済日に利息分の残高が不足しました。

担当者は焦って利息分を自分で立て替え、顧客になりすまして入金しました。

後に顧客からのクレームで発覚し、本人とラインの管理職らが口頭注意を受けました。担当者は、その後も、それ以前から行っていた危機対応融資での改ざんはやめなかったと説明しています。

関係者の説明
付箋 05

異動して「誰も改ざんしていない」ことに驚いた職員。池袋では逆の驚きもあった

支店ごとの感覚の違いを示す、別々の職員の証言があります。

鹿児島支店から別の支店へ異動した職員は、そこで誰も改ざんをしていないことに驚いたと説明しました。異動先では課長が顧客先にも同行し、営業トークも教えてくれたため、「こちらが先だったら」と悔やみ、鹿児島にいたときは何が普通なのか分からなかったと振り返っています。

一方、池袋支店で試算表の自作を始めた別の職員は、東京へ来て間もない時期にそのやり方を知りました。

その職員は「東京ではこんなことをしているんだと驚いた」としながら、右も左も分からず、そういうものだと思ってしまったと説明しています。

同じ銀行でも、職場に入った時点で周囲が何を「普通」としているかによって、逆向きの驚きが生じていました。

関係者の説明
付箋 06

本物の試算表は捨てる。偽物だけを残し、客先では社判まで押してもらった

池袋支店では、顧客から受け取ったExcelデータの数字を変えるだけでなく、ある顧客の試算表データを別の顧客名義へ流用したり、紙の試算表に似せてExcelで一から作ったりしていました。

発覚を防ぐ工夫も記録されています。複数のExcel様式を顧客ごとに使い分け、自作した試算表を客先へ持参して詳しく説明せず、社判を押してもらって顧客作成資料に見せかける職員もいました。

さらに、顧客から受け取った真正な紙の試算表を破棄し、自作・改ざんした試算表と混在しないようにしていました。

Excelデータは支店の共有フォルダに置かれました。別の担当者から使えるデータがないか聞かれると、過去に自作した試算表の顧客フォルダ名を教え、受け取った側が様式を流用して自分で数字を入れることもありました。

確認された事実
付箋 07

「作っといて」。別の場面では課長から「じゃあ、作るしかないな」と言われたという職員

池袋支店の営業担当者Eは、試算表の自作・改ざんを始めたきっかけを第三者委員会に説明しています。

Eによると、自分の担当先ではなく、先輩の稟議を手伝う中で試算表を「作っといて」と頼まれた記憶がありました。また、自分の案件で危機要件に当てはまらないと課長へ伝えた際にも、試算表を作る方向の言葉を掛けられたとしています。

Eは、課長から「じゃあ、作るしかないな」と言われ、「そういうものなのかな」と思ったと説明しました。

同じ課の別の担当者らも、課長から、試算表を直せば要件に当てはめられることや、他の課・支店でも行っているとの助言を受けたと証言しました。報告書は、これらの供述などから、同課で試算表の自作・改ざんが広がった経緯を分析しています。

関係者の説明委員会の指摘
付箋 08

計算式入りExcelで数字を連動。職員は試算表づくりを「アート」「完全犯罪」と表現した

別の支店では、紙の一部分だけを切り貼りすると数字の整合が崩れて発覚しやすいことから、顧客の試算表に似せたExcelを一から作る職員が複数いました。

そのExcelには計算式が入っていました。

たとえば売上高を要件に合う数字へ変えると、売上総利益、営業利益、当期利益など関連する項目も自動的に変わり、「タテ算、ヨコ算」が崩れないようになっていました。

作成データは他の職員にも共有され、別の不正案件で利用されました。本物の試算表はシュレッダーで廃棄されるため、報告書は簡単には発覚しないとしています。

この手法について、ある職員はヒアリングで、顧客ごとに異なる様式を一から作る作業を「アート」と呼び、行われたことを「完全犯罪」だと思うとも述べました。

確認された事実関係者の説明
付箋 09

同期が集まる研修会。ロビーの雑談で「当てはめるんだよ」と改ざん方法を知った

Y支店の職員Lは、同期が集まる研修会で、研修施設のロビーで数人と話をしたことが不正のきっかけになったと説明しています。これは研修の正式な内容ではなく、同期同士の雑談でした。

Lが危機要件に当てはまる案件が少ないと話すと、同期の一人から、要件に「当てはめる」ことや、先輩らが使っている改ざん方法があるという話を聞き、切り貼りの手口が話題になりました。

研修会の後、Lは実際に二つの年度の試算表の日付部分を入れ替え、上向いていた業況を下向きに見せかけました。

Lは、それまでその手口を思いつかなかった一方、話を聞いた際には納得したと説明しています。後のヒアリングでは、周囲もこの程度はしているという意識があったことも語りました。

関係者の説明確認された事実
付箋 10

本部は110口座を内部規定違反として処理。第三者委員会は106口座に不正を認定

第三者委員会は、役職員アンケートから、2014年末に池袋支店で試算表の自作・改ざん疑義が表面化していたことを把握しました。当時、本部は110口座を対象に調査し、最終的には試算表の改ざんも危機要件の充足性も「問題なし」と判断し、内部規定違反として処理していました。

そこで第三者委員会は、当時の処理が適切だったかを調べるため、この110口座を改めて確認しました。

第三者委員会は110口座のうち106口座で不正行為を認定し、さらに3口座は不正の疑義を払拭できないとしました。

商工中金が、不正を認定された106口座と疑義が残った3口座、計109口座について危機要件を改めて判定すると、52口座は要件を満たしていないとの結果になりました。報告書は、当時の本部対応そのものを独立した調査対象として詳しく検証しています。

委員会の指摘
付箋 11

回答パターンまで書かれた「誘導質問ペーパー」。「うまく聞いてください」と渡された

2015年1月、本部のコンプライアンス統括室は、試算表を作った職員らへの質問方法を記した文書を作成しました。第三者委員会はこれを「誘導質問ペーパー」と呼んでいます。

文書には質問だけでなく、回答パターンと、その回答に応じて次にどう聞くかまで書かれていました。監査部の特別調査班には、この内容に沿って「うまく聞いてください」という趣旨の依頼がありました。

ペーパーには、事実を正確に思い出すよう求める文脈で、「間違ってしまわないように、救うために聞いているのだよ」との括弧書きまでありました。

作成に関わった担当者は、論点を明確にするためで、回答を強制する意図はなかったと説明しました。一方、第三者委員会は、単なる論点整理や想定問答ではなく、最終的にシナリオに沿った回答を得ることが目指されていたと評価しています。得られた回答を踏まえ、コンプライアンス統括室は110口座について試算表の改ざんは認められないと結論づけました。

委員会の指摘確認された事実
付箋 12

元の資料を抜き、後から作った資料に当初の日付。最初からあったような外形を作った

110口座について危機要件を満たすとの判定をした後、本部の組織金融部は支店管理職へ、稟議書類の差し替えを指示しました。

まず、当初の危機要件チェックシートと試算表などを稟議書類から抜き取り、別ファイルへ移して本部へ提出させました。そのうえで、新たに認定し直した危機要件のチェックシートを作成しました。

新しいチェックシートには当初の稟議時の日付を入れ、当時の担当者・決裁者に押印させ、当初の稟議時には存在していなかった資料まで添付された例がありました。

第三者委員会は、この作業により、110口座の稟議書類について、差し替え後の危機要件で最初から申請されていたかのような外形が作られたと認定しています。

委員会の指摘確認された事実

報告書が指摘した背景

第三者委員会は、不正を一部職員だけの問題として整理していません。危機対応融資の実績を支店・個人の業績評価へ組み込み、現場では達成すべき「割当」と受け取られる数字が積み上がっていました。要件を満たす案件が見つからなくても数字を求められる中で、資料を変えることが職場のノウハウのように共有された支店もありました。(本文pp.36–38、pp.147–148)

同時に、稟議のチェック、内部監査、内部通報、経営への情報伝達も十分に機能しませんでした。報告書は、危機対応業務を業績評価の枠組みから外すこと、内部監査を強化すること、管理職教育やコンプライアンス研修を見直すことなどを再発防止策として挙げています。(本文pp.151–154)

この記事では、2017年4月25日の第三者委員会報告書に記録された事実、関係者の説明、委員会の評価を区別し、後の行政処分やその後の経営改革の評価は混ぜていません。

この記事の訂正

  • 総ページ数を本文の印字155ページから、前付け・別紙を含むPDF全体の172ページへ訂正しました。冒頭と付箋10では、110口座の「問題なし」が改ざん・危機要件の判断を指し、内部規定違反として処理されていたことを補いました(p.83–84)。危機要件を再判定した109口座は、不正を認定された106口座と疑義が残った3口座の合計と明確にしました。元の件数は変更せず、「口座」が顧客数ではなく融資件数を表すことも補いました(p.41)。

サイト全体の訂正履歴

この報告書のテーマ

この記事の編集について各付箋は原文のページに紐付けています。関係者の説明と、調査委員会が確認・評価した内容をできる限り分けて記載しています。記事は原則として、この報告書に記載された内容を対象にしています。