何があった?

2018年、シェアハウス運営会社の賃料支払い停止をきっかけに、スルガ銀行のシェアハウス関連融資をめぐる問題が表面化しました。銀行は同年5月、シェアハウスに限らず収益不動産ローン全般を対象に調査する第三者委員会を設置しました。

9月7日に公表された調査報告書は、融資審査に使う預金残高、所得、賃料、入居状況などの資料に多数の偽装があったこと、相当数の行員が偽装に関与したり、疑いを持ちながら融資手続きを進めたりしていたことを認定しました。さらに、過大な営業目標、営業部門から審査部門への圧力、内部監査や情報伝達、経営のガバナンスまで調査対象を広げています。

背景情報:スルガ銀行(Wikipedia)

この報告書で気になった11か所

「不正な融資があった」という結論だけではなく、実際に資料がどのように作られ、審査をどう迂回し、数字が現場へどう課され、それをなぜ組織が止められなかったのかに注目します。報告書に残されたメール、フォレンジック調査、行員アンケート、委員会の評価から、具体的な運用が見える11か所を拾います。

付箋 01

偽装資料を『エビ』と呼び作成を依頼。桁を間違えて残高2億円超にも

自己資金を持っているように見せるため、預金通帳やネットバンキング画面の残高を偽装した事例が多数確認されました。

報告書の一覧には、首都圏営業の特別推進チームのリーダーが業者へ「エビ 15Mぐらいでお願いします」と偽装された自己資金の確認資料の作成を依頼した例があります。

「エビ」は、融資審査の裏付け資料を意味する「エビデンス」の略称です。

別の案件では、業者が同じ口座番号で残高の違うネットバンキング画面を3回送りました。そのうち1回は桁を間違え、残高が2億円を超えてしまいました。報告書は、融資を借りる必要がないほどの残高になったため、その後修正されたと記しています。

委員会は、電子メールで確認できた事例を中心に認定しており、認定件数が偽装の全数を意味するわけではないとも注意しています。

確認された事実
付箋 02

現地調査の前にカーテン。空室を少なく見せる工作が可能になっていた

収益不動産ローンでは、融資の稟議申請前に行員が物件を現地確認するルールがありました。しかし、調査担当者が現地へ向かうタイミングを行員から業者へ事前に伝えることがしばしばありました。

これにより、業者は調査前に空室へカーテンを引き、入居している部屋が多いように見せる工作ができました。

委員会は、調査予定の事前伝達、「カーテンやってきます」との連絡、カーテン設置後の写真送付などの事例を挙げています。

一方、別の案件で業者から「空室部屋、カーテンつけたほうがいいですか?」と聞かれた行員が、そのままでよいと答えた例も掲載されています。

確認された事実
付箋 03

調査対象87人中77人で、偽装への関与をメールまたは本人の自認で確認

報告書の書類偽装に関する集計では、フォレンジック調査(電子メール等のデータを調べる調査)の対象は行員99人。このうち、収益不動産ローンの裏付け資料を業者から直接取得する可能性があった人は87人でした。

この87人のうち、偽装が疑われるメールが検出されたのは74人でした。メールが検出されなかった13人のうち9人へのインタビューでは、3人が関与を認めました。

メールという物的証拠または本人の自認によって偽装への関与が認められたのは、87人中77人(88.5%)でした。

ただし委員会は、87人は偽装への関与可能性を考慮して選別した調査対象であり、この88.5%という比率を投資不動産ローンに関わった行員全体へ当てはめてはいけないと明記しています。

委員会の指摘確認された事実
付箋 04

取引停止業者とは『ハコ』と呼ぶ別法人を介して取引継続。サンプル6人で595通

審査部は、問題があると判断した不動産業者を取引停止として登録する運用を行っていました。しかし営業本部の各支店では、停止された業者についても「ハコ」と呼ばれる別法人を介し、関係を続ける行為が公然と行われていたと報告書は記しています。

委員会がインタビュー対象者からサンプル6人を抽出し、2016年10月から2018年5月までのメールを集計すると、取引停止業者とその「ハコ」と認められる業者との間で595通が送受信されていました。

委員会がインタビューした所属長は、麻生氏に相談したところ、取扱停止は銀行独自のルールであり、物件自体に問題がなければ商取引の範囲で扱ってよいとの指示を受けたと証言しました。委員会は、審査部に分からないよう別法人格を利用して付き合いを続ける行為が慢性的に行われていたと評価しています。

確認された事実関係者の説明
付箋 05

銀行側から『仕入133 ローン168 売価187』。融資可能額を先に伝えて案件組成を依頼

委員会は、不正行為の温床を作った行為の一つとして、行員が業者へ銀行の審査条件を明かしていたことを挙げています。年収や融資限度、金利、求められる利回りなど、「どのような案件なら審査が通るか」に直結する情報です。

2016年6月には、首都圏営業部長が自ら業者へ、仕入価格・ローン額・売価を数字で示し、ローンが出る金額を前提に案件を組成するよう依頼したメールが確認されています。

メールには「仕入133 ローン168 売価187」で取り組むよう求め、融資可能額を先に伝えた例が残っています。

同じ一覧には、物件の評価額を教えるのでそれに合わせて売買契約を作るよう業者へ説明していた、との内部指摘も記録されています。

確認された事実
付箋 06

公式目標893.1億円に対し『ストレッチ目標』は1,508億円

スルガ銀行には、人事考課や表彰の基礎となる公式な「営業推進項目」がありました。しかし、収益不動産ローンを多く扱うパーソナル・バンクでは、その数字をさらに積み増した独自目標を作り、各営業店へ月次で割り振っていました。この独自目標は「ストレッチ目標」などと呼ばれていました。

2016年度の公式な営業推進項目は「有担保FL純増額」(担保付きのフリーローン残高を差引きで増やす額)でした。

パーソナル・バンクの公式目標893.1億円に対し、ストレッチ目標の有担保ローン純増額は通年で1,508億円に設定されていました。

関係者は委員会のインタビューで、「クリアできる目標かどうかは二の次」だった、営業推進項目の1.5倍など「異常な目標値」だった、と説明しています。

確認された事実関係者の説明
付箋 07

『数字ができないなら、ビルから飛び降りろ』『死んでも頑張ります』には『それなら死んでみろ』

第三者委員会は全行員向けアンケートを行い、3,595人から回答を得ました。資産形成ローンの営業経験がある回答者343人のうち248人(72.3%)が、営業成績が伸びないことで上司から叱責されたことがあると回答しています。

報告書は「特に厳しく叱責された例」として自由回答を抜粋しています。そこには、目標達成を厳しく追及され、「死んでも頑張ります」と答えたところ「それなら死んでみろ」と叱責されたとの回答があります。

「数字ができないなら、ビルから飛び降りろ」と言われた――行員アンケートには、こうした回答が並んでいます。

これは委員会が個々の発言の発生を独立に認定したものではなく、行員アンケートの特徴的な回答として報告書に掲載された内容です。同じページには、毎日2〜3時間立たされて詰められた、机や椅子を蹴られた、といった回答もあります。

関係者の説明(報告書より)

行員アンケート自由回答の抜粋。委員会が個々の発言を独立に認定したものではありません

担当しているチームの目標数字に対し進捗が不調であったとき、チーム全体を前に立たせ、できない理由を言わされた。時間は 2 時間以上にのぼり支店の社員の前で給与額を言われそれに見合っていない旨の指摘を受け、週末に自身の進退(退職)を考え報告を求められた。
調査報告書 p.175原文PDF ↗
関係者の説明
付箋 08

数字のため、顧客に『必要のないローン』を短期で借りてもらったとの回答

行員アンケートでは、営業成績の達成のために社内規程やルールに違反した融資を実行した、または見聞きしたことがあるかも尋ねています。資産形成ローンの営業経験がある回答者343人では、52人が実行したことがある、27人が見聞きしたことがあると回答し、合わせて23.0%でした。

「お客さまにお願いして、必要のないローンを短期で借りていただいたことがあります」とする行員回答が記録されています。

別の回答者は、月内の数字を作るため、リフォーム完了後の実行が条件だった住宅ローンを完了前に実行したと記しています。

委員会は、営業成績を伸ばすために規程・ルール違反の融資が一定数行われていた実態がうかがえると評価しています。

関係者の説明委員会の指摘
付箋 09

審査部が融資261件に疑義。42件では営業幹部が自ら審査部と交渉

審査部が、不当に高い賃料設定などと認識して「審査意見」欄に記録した案件は、判明しているものだけで261件ありました。

そのうち159件は家賃や入居率に疑問があるという内容でした。

さらに42件では、麻生氏自身が営業側として審査部と折衝していたと報告書は記しています。

委員会は、資料改ざんや不当に高い賃料設定などが、特定支店だけでなく多数の支店・行員・業者に広範囲に蔓延していたと評価しています。

委員会の指摘確認された事実
付箋 10

委員会は『誰1人』通常報告も内部通報もしなかったと指摘。審査の疑義は正式な会議体へ届かず

委員会は、本件の大きな特徴として、不正行為等が長期間、多数の支店にわたって続き、その間に人事異動もあって情報が拡散していたと考えられるのに、通常の報告や内部通報につながらなかったことを挙げています。

審査部でも、不正行為等への疑義は担当者レベルで広く認識されていた一方、最終的に取締役会や経営会議などの正式な会議体には報告されませんでした。ただし、報告書は同じ箇所で、融資管理部から岡野副社長には共有されていたとも記しています。

委員会は、これだけ情報が広がっていたのに「誰1人」上司への通常報告も内部通報窓口への通報もしなかった、と指摘しました。

その直後、報告書はこれを「企業風土の著しい劣化」と結び付けています。

調査委員会の記述

不正行為等に関わった行員の動機についての第三者委員会の評価

結局、これらの不正行為等に関わった銀行員は、銀行のためでもなく、顧客や取引先等のためでもなく、自己の刹那的な営業成績のため(逆に成績が上がらない場合に上司から受ける精神的プレッシャーの回避のため)、これらを行ったものと評価される。
調査報告書 p.192原文PDF ↗
委員会の指摘
付箋 11

委員会が示した構図――利益を稼ぐ部門が誰からも指摘されなくなる『聖域化』

報告書は「本件の構図」という節を設け、そこで「パーソナル・バンクの聖域化」を論じています。委員会は一般論として、飛び抜けて多くの利益を稼ぐ部門や、他部署との人事異動が少ない専門部門などでは、周囲が意見を差し挟めなくなることがあると説明します。

そのような部門ではチェック機能が働かなくなり、部門側もチェックされないことを認識し、不適切なリスクが修正されないまま拡大する、と委員会は整理しました。

委員会は、銀行の業績を大きく支えていたパーソナル・バンクが「聖域的な性格」を持ちつつあったのではないか、と評価しました。

報告書は、シェアハウスローンの急増、書類改ざんの通報、審査部門への営業圧力、業績のパーソナル・バンクへの極端な依存など、複数のリスク兆候が存在していたとも指摘しています。

委員会の指摘

報告書が指摘した背景

委員会は、パーソナル・バンクへの業績の依存が進む一方、シェアハウスローンの急増、書類改ざんの通報、審査への営業圧力などの兆候があり、監査で重点的に調べるべきだったと指摘しています。その上で、他部署が意見を差し挟めなくなる「聖域化」の構図を示しました(印字227-228ページ)。

この記事の訂正

  • 引用リンクが印字ページより1ページ前を開いていたため、PDFページ対応を+7から+8へ訂正しました。印字p.85はPDFの93ページ目です。付箋08の「工事前」は「リフォーム完了前」へ訂正しました(p.177)。付箋09の42件は麻生氏本人による審査部との折衝と明確にし(p.191)、10には正式な会議体への報告とは別に、融資管理部から岡野副社長へ共有されていたとの留保を補いました(p.192)。調査人数、目標値、アンケート回答の分母などを裏付ける参照範囲も追加しました。

サイト全体の訂正履歴

この報告書のテーマ

この記事の編集について各付箋は原文のページに紐付けています。関係者の説明と、調査委員会が確認・評価した内容をできる限り分けて記載しています。記事は原則として、この報告書に記載された内容を対象にしています。