何があった?

2018年10月、KYBは、同社と子会社のカヤバシステムマシナリー(KSM)が製造した建築物用の免震・制振用オイルダンパーの一部で、性能検査記録データを書き換え、大臣認定の基準または顧客と合意した基準値を外れた製品を建築物に取り付けていたことを公表しました。

KYBが設置した外部調査委員会は、係数を掛けて検査値を書き換える行為や、試験機の機能を使って測定値を動かす行為が、いつ、どのように始まり、どこまで認識されていたのかを調査しました。委員会は2019年2月4日付で調査報告書を提出し、KYBは同月13日に開示版を公表しました。

この記事では、後日の別報告書や再発防止策資料は混ぜず、この外部調査委員会の調査報告書だけを使います。報告書には、試験機の操作方法、営業メール、発覚後の対応、内部監査が見逃した理由まで具体的な記録が残っています。

この報告書で気になった12か所

以下のページ番号は、報告書本文に印字されたページです。

付箋 01

納期に間に合わないと説明し、試験機のキーに0.85〜1.15の係数を設定した

免震用オイルダンパーの製造量が少なかった頃は、立会検査で規格内の数値が出なければ、一度組み立てた製品を解体し、バルブの締め直しや部品交換をして調整していました。

量産が始まると、性能検査で不合格になった製品をすべて解体・調整していては納期に間に合わなくなることが想定された、と報告書は関係者の供述を整理しています。製造部、技術部、品質保証部の一部の関係者が協議し、係数を書き換える方法が考案されたとされています。ただし委員会は、実際に組み直していたら納期に間に合わなかったことを示す客観的証拠はなく、単に手間を避けるためだった可能性も否定できないと留保しています。

初期の方法では、試験機のパソコンの複数キーに概ね0.85〜1.15の係数をあらかじめ設定し、実際の検査結果に応じてキーを押すと自動的に係数が掛かるようになっていました。

KYBは2002年3月ごろ、外部業者へ係数書換えのためのプログラム改変を委託し、改変されたプログラムは同年7月に組み込まれました。

確認された事実関係者の説明
付箋 02

原点調整後の数値が不自然だったため、圧側だけ1%加算するよう試験機ソフトを変更した

2013年に導入された2000kN試験機には、伸側と圧側の減衰力の中央値を原点方向へ動かす「バランスON」機能がありました。この機能を使うと、たとえば伸側450kN、圧側550kNという測定値を、ともに500kN前後へ動かすことができました。

ところが、原点調整をすると伸側と圧側がほぼ同じ数値になり、顧客から不自然だと指摘されることが懸念されました。

2014年10月、製造部内の協議を受けて外部業者へ依頼し、バランスONを使った場合は圧側の荷重だけ1%加算して、圧側と伸側が同じ数値にならないようソフトウェアを変更しました。

確認された事実
付箋 03

「20→0.98」「50→1.02」「ON」。Excelに操作内容がそのまま残っていた

2000kN試験機では、性能検査の結果をパソコンのExcelファイルへ記録できました。2017年9月以降のシートには、検査結果だけでなく、係数書換えや原点調整の内容も記録されていました。

備考欄の「20→0.98」は20カインの加振で0.98を掛けたこと、「50→1.02」は50カインで1.02を掛けたことを示し、原点調整をした製品には赤字で「バ ON」や「ON」と記録されていました。

報告書には実際の表の一部が掲載されており、「20→0.98 50→1.02 ON 100→0.97 ON」といった行も残っています。このExcelは、関係者の説明によれば定期的に製造部から技術部へ共有されていました。カインは加振速度の単位で、1カインは1cm/秒です(印字p.26)。

確認された事実関係者の説明
付箋 04

営業メールには規格外なら係数を掛ける方針。複数の営業担当者も宛先に入っていた

2015年2月3日、営業2部の担当者から技術部幹部へ、ある物件についてメールが送られました。

報告書によると、そのメールには、減衰力が規格の範囲内に入らない場合に係数を掛けて対処する内容が記され、複数の営業2部の従業員も宛先に含まれていました。

委員会は、このメールの送信者だけでなく、宛先に入っていた営業2部と技術部の従業員も、遅くとも2015年2月3日時点で係数書換えの存在を認識していたことが強く推認されるとしています。

一方、当時の営業部幹部の一人は認識していなかったと説明しました。委員会は、メールがその幹部の指示を受けて送られたという別の供述などから、この説明の信用性は高くないと評価しています。

確認された事実委員会の指摘
付箋 05

8月9日の問題提起は録音されていた。内部調査が始まったのは8月20日だった

2018年8月9日、従業員AA氏は、係数書換えへの問題意識を製造部関係者へ直接伝え、その日のうちに取締役で工場責任者のBA氏とも面談しました。

AA氏は8月9日の一連の面談を録音しており、外部調査委員会はその録音データの提供を受けています。

BA氏の説明では、内部調査を始めたのは8月20日でした。8月11〜19日が盆休みだったことを理由に挙げましたが、委員会は問題の重大性・緊急性などから、調査着手まで約10日を要した合理的理由とは認められないとしています。

確認された事実委員会の指摘
付箋 06

書換えをやめた立会検査は不合格になった

工場責任者のBA氏は、8月下旬には係数書換えの存在を確信したものの、すぐ止めると問題提起した従業員がマスメディア等へ情報を伝えるおそれがあったことなどを理由に、直ちには止めなかったと説明しています。ただし委員会は、BA氏が2018年8月に初めて疑いを認識したという供述を信用せず、それ以前から係数書換えを認識していたと認定しています(印字p.58注53)。

9月11日ごろに性能検査で停止が指示された後も、立会検査では13日、14日ごろに書換えが行われ、17日にも継続するよう指示を受けたとの供述が報告書に記録されています。

9月19日、立会検査でも書換えを止めるよう指示され、実際に係数書換えを行わなかったところ、その日の検査結果は不合格になりました。

委員会は、19日以降すべての性能検査・立会検査で書換えがなくなったことを示す客観的証拠までは発見できなかったとも記しています。

確認された事実関係者の説明
付箋 07

問題把握後、正式な出荷停止命令を示す客観的証拠を委員会は確認できなかった

報告書は、出荷停止を命令する権限を持つKSM側の関係者のうち、複数の人物が「自分を含め誰も正式な出荷停止を命令していない」と説明したことを記録しています。KYBからKSMへ出荷停止を命令したこともないとの説明でした。

外部調査委員会は、問題を把握した後にKYBまたはKSMが明示的かつ正式な出荷停止命令を出したことを示す客観的証憑は確認できなかった、と結論づけています。

一方、KYBは、9月22日時点でKYB立会いの下、未出荷在庫について再度の性能検査を行い、それ以降は不正行為が介在した製品の出荷を停止したと説明しています。

委員会の指摘会社の説明
付箋 08

「ON」を消した一覧表を顧客へ提出し、元のファイルやメールも削除された

問題把握後の2018年9月上旬、KSMの品質保証部幹部は、係数書換えの証拠となるExcelを試験機のパソコンから抜き取るよう指示しました。担当者はUSBメモリへコピーしたうえで、試験機内のファイルを削除しました。

10月、KYB側の幹部がExcelに赤字で残った「ON」の意味を確認すると、KSM側から「ゼロ点調整」という正しい対応を示すもので、不正を意味しないとの説明を受けました。その後、「ON」が顧客の混乱や問い合わせを招く可能性があるとして、削除して提出するよう指示が出されました。

実際に「ON」を削除した一覧表が顧客へ提出され、その後、顧客に元の「ON」の存在を知られないよう一覧表そのものを削除する指示も出されました。

一覧表の削除指示を受けたFB氏は、手元の一覧表を削除しましたが、9月30日にKYBへ送付済みだったため、一覧表自体は失われず、委員会にも提供されました。また、KYBの品質本部幹部TB氏は、元の一覧表を添付した電子メールも削除していました。委員会は、そのメールだけを削除した合理的な説明はなされなかったとしています。

委員会は、「ON」を消して提出するよう指示したKYB側のTB氏とUB氏について、不正行為の記録だと認識していたとまでは認定していません。その一方で、一連のデータ消去は調査への深刻な支障になるとして、KYBへ証拠保全の徹底を要請しています。

確認された事実委員会の指摘
付箋 09

主力BDS型の特定型番は、ヒアリングでは「概ね9割以上」で係数を書き換えていた

委員会は原因分析の中で、KYBとKSMが、自らの技術力・生産能力を上回る案件を受注していたことが不正の温床になったと指摘しています。

ヒアリング結果等によれば、KSMが製造する免震用オイルダンパーの主力製品「BDS型」の特定型番では、概ね9割以上の製品で係数書換えが行われていたとのことでした。

これはヒアリング等に基づく記述であり、全製品を集計して確定した比率ではありません。委員会はこの記述を受け、データ改ざんなしで量産すること自体が困難だったことがうかがわれると評価しています。

関係者の説明委員会の指摘
付箋 10

不合格なら組み直す製造部自身が検査し、免震用の立会検査には成績の良かった製品を選んでいた

KSMでは、検査で不合格になれば製品を組み直す負担を負う製造部自身が性能検査を担当していました。委員会は、検査結果に最も利害を持つ部署が検査していたこと自体を、検査体制の不備として挙げています。

性能検査の過程や結果を、製造部の検査担当者以外がチェックする仕組みもありませんでした。

さらに、免震用オイルダンパーの大部分の顧客立会検査では顧客が検査対象を指定しなかったため、KSMは対象物件のダンパーから性能検査で成績の良かったものを選んで立会検査に使っていました。

立会検査の直前には、波形をきれいに見せて顧客からの質問やクレームを避けるため、ダンパーを加振することも常態化していたと報告書は記しています。

委員会の指摘
付箋 11

約10年間同じ担当者が性能検査を続け、一時期はほぼ一人。昇進後は部下へ改ざん方法を教えた

EA氏は2007年以降、少なくとも問題が発覚した2018年8月に至るまで約10年間、免震・制振用オイルダンパーの性能検査を担当していました。

特に2007〜2011年ごろは概ねEA氏だけが性能検査を行い、2013年ごろに昇進すると、今度は部下へ検査データ改ざんの方法を教え、指示する立場になりました。

委員会は、一部の人が長年同じ業務を単独で担当し、上司や同僚からの牽制が失われたこと、同じ業務分野でそのまま上長へ昇進したことが、不正の承継・固定化につながったと評価しています。

確認された事実委員会の指摘
付箋 12

東洋ゴム問題後の社内検証は、自動出力だから改ざんできないと結論していた

2015年3月に公表された東洋ゴム工業の免震積層ゴムのデータ偽装問題を受け、KYBの品質部門は、KSMの免震・制振用オイルダンパーについても性能データを改ざんできない体制になっているかを検証しました。

その検証では、検査結果の品質データが自動出力されるため改ざんできない、との結論が出されていました。

委員会は、この検証が出力場面だけを見ており、試験機を操作する段階での改ざんリスクなどへ目が向いていなかったと指摘しています。

さらに、日産自動車の完成検査問題や神戸製鋼所のデータ偽装問題を受けた2017年以降の特別内部監査でも、KSMについて「品質記録には意図的なデータ改ざん、捏造等の不具合は発見されなかった」と結論づけられていました。委員会は、こちらも形式的な検証にとどまったと評価しています。

確認された事実委員会の指摘

報告書が指摘した背景

外部調査委員会は、検査データの書換えが長期化した原因として、ものづくりに携わる者としての規範意識の欠如、不都合な事実と向き合わない企業風土、自らの技術力・生産能力を顧みない受注、検査体制・方法の不備、試験機の管理不足、情報共有の不全、固定的人事、内部監査の不備などを挙げています。

とくに試験機については、係数を掛ける操作を容易にするソフトウェアや、原点調整後の不自然な数値を自然に見せるソフトウェアまで組み込まれ、委員会は「ボタン一つ」で不正を行える状態がルーティーン化し、検査担当者の心理的抵抗を弱めたと評価しています。

一方、この報告書は2019年1月31日までの調査に基づくもので、KYBグループ全体の類似不正行為に関する調査は当時継続中でした。本記事も、この報告書が対象とした範囲を越えて事実を補完していません。

この記事の訂正

  • 付箋01の納期に関する見出しを、裏付けられた事実ではなく関係者の説明として改めました(p.36–37)。付箋03のExcel共有は関係者の説明と区分し、付箋06にはBA氏が以前から書換えを認識していたという委員会の認定を補いました(p.48、58注53)。付箋08の「ON」を不正の記録と認識していたとは認定できなかったという留保は、TB氏・UB氏に限定しました(p.62)。付箋10の製品選定は免震用の立会検査に限定し、付箋12の2015年3月は社内検証日ではなく東洋ゴムの公表時期と明確にしました。直接引用ではない見出しの引用符と、付箋02・03・06・08の参照も整えました。

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この報告書のテーマ

この記事の編集について各付箋は原文のページに紐付けています。関係者の説明と、調査委員会が確認・評価した内容をできる限り分けて記載しています。記事は原則として、この報告書に記載された内容を対象にしています。