何があった?
ダイハツは2023年4月、海外向け4車種の側面衝突試験で、認証試作車のドア内張りに量産車とは異なる加工をしていたことを公表しました。翌5月には、ダイハツ ロッキーHEVとトヨタ ライズHEVのポール側面衝突試験で、本来提出すべき運転者席側のデータではなく助手席側のデータを提出していたことも判明しました。
第三者委員会は対象を広げて調査し、25の試験項目で174個の類似する不正行為を認定しました。会社の公表では、不正が確認された対象は生産終了車を含む64車種・3エンジンに及びます。2023年12月20日に公表された調査報告書は162ページあります。
背景情報:ダイハツ工業(Wikipedia)
この報告書で気になった10か所
件数の多さ以上に目を引くのが、現場で実際に選ばれた対処です。試験する側を間違えた後の処理、審査官に見せる直前の車両、まだ準備できていないエアバッグ、相談したときの返答。報告書には、さらに安全性担当部署の人員数や、内部通報への不信感も記されています。
右側を試すはずが左側を試した。もう1台も時間もなかったので、左側の結果を右側として提出した
ロッキーHEVとライズHEVのポール側面衝突試験では、助手席側と運転者席側の両方の結果が必要でした。ところが、届出試験用の車両で本来は右側を試すべきところ、担当者は誤って左側を試験しました。
その後、右側の結果を提出する段階で、右側の試験をしていないことが分かりました。
改めて試験する時間も車両もなかったため、左側で行った社内試験の結果を、右側の試験結果として提出しました。
報告書では、担当者は安全性には問題ないとの思いもあったと整理されています。
内部通報の情報を知り、審査官に見せる前だけ通常品へ交換。確認後にまた切込みを入れた
開発中の車種の側面衝突試験では、衝突したときにドアトリムが狙った割れ方をするよう、裏面へ切込みを入れるなどの加工が予定されていました。
ところが担当者は、認証試験で加工車両を使っているという内部通報があったとの情報を知ります。
そこで審査官が確認する前に加工済みのドアトリムを通常仕様へ急いで交換し、確認が終わった後、翌日の試験までに事後確認しにくい切込みだけを再び入れました。
エアバッグECUの準備が間に合わない。認証試験ではタイマーでエアバッグを開いた
側面衝突試験では、本来は衝突時の衝撃をセンサーで検知し、車両のエアバッグECUがサイドエアバッグなどを作動させる必要があります。
一方、開発日程短縮のため、開発データ取得と認証用の届出試験を同じ衝突試験で兼ねることがありました。その時点までに車種に対応したECU設定が間に合わない場合があったと報告書は説明しています。
その場合、エアバッグECUではなくタイマーで作動させる方法で認証試験を実施し、そのデータを使って申請していました。
担当者らは、量産前には正しいECUが設定されるので安全性には問題ないと考えていたとされています。
基準は42ミリ。測定結果が超えたので、処理システム上で41.5ミリにした
委員会は、1998年の欧州向け車両の側面衝突試験で、ダミーの胸部変位の数値が法規上限の42ミリを超えた後、次の改ざんが行われたと認定しました。
担当者は、認証試験に合格させるため、ひずみ量を操作して処理システム上の値を41.5ミリに変更し、その出力を審査官へ提出しました。
この件では、不正を直接裏付ける試験データ等は見つかっていません。委員会は、関係者の供述と客観的な証拠との整合性などを慎重に評価した上で、不正を認定しています。
その後、同車種には衝突安全性能を高める設計変更が入り、別の国内向け立会試験では基準を十分に満たす結果が出たとも記載されています。
管理職は「何でも相談してくれ」。実際に相談すると返ってくるのは「で?」
委員会は、現場の担当者が問題を抱えたとき、管理職への相談によって解決を期待しにくい状況があったと分析しています。
ヒアリングでは、管理職は表向きには相談を促す一方、実際に相談すると建設的な支援につながらず、失敗の理由や日程について問い返されるだけだったという意見が出ました。
その状況を表す言葉として、報告書には「何でも相談してくれ」と言われても、相談すると「で?」と返される、という証言が記録されています。
「できない」と声を上げると、なぜできないかの説明で仕事が増える
従業員アンケートには、日程に間に合わないと手を挙げると、その理由、間に合わせる方法、今後の対応の説明に追われ、かえって本来の仕事に使える時間が減るという趣旨の回答が複数ありました。
「できない」と声を上げるほど説明業務が増えるので、声を上げない、あるいは諦める方向に向かうという回答までありました。
アンケートには、日程延長や人員補充が最初から選択肢に入らず、「今ある工数でどうにかする」対応になっているという回答もあります。委員会は、自分の問題は自分で解決する風潮が、現場で抱え込む思考を後押ししたと分析しています。

社内の実験報告書と、当局へ出す試験成績書。その二つを突き合わせる仕組みがなかった
ポール側面衝突試験の左右データ入替えは、当局に提出した試験成績書と、社内の実験報告書の記載が矛盾していたことで容易に発見されたと報告書は説明しています。
一方で、普段はこの二つの整合性を確認するチェック体制そのものがなく、各担当者が確認するしかない状態でした。
ヒアリングでは、元データまで辻褄を合わせなくても発覚するとは考えにくかった、という趣旨の説明も記録されています。委員会は、チェック体制があれば多くの虚偽記載を未然に防げた可能性が高いと評価しています。
認証を担当しているのに「認証法規の研修を受けたことはなかった」という証言
委員会は、認証制度自体が専門的である一方、法規認証に精通した人員や継続的な教育が不足していたと指摘しています。
ヒアリングでは、認証業務の担当者から、認証法規の研修を受けたことがない、正解が分からないまま資料を作っていたという趣旨の説明が出ています。
さらに社内では、立会方式の認証試験だけを「公式試験」と呼ぶ用法があり、本来は同じく公式の認証試験である届出方式が相対的に軽く見られていたことも、不正が広がる土壌になったと委員会は分析しています。
衝突試験の実機評価に関わる人員は、2010年を100とすると2019年には27まで減っていた
委員会は、法規認証に精通した人員が不足した背景を調べる中で、2011年頃から法規認証室だけでなく、衝突試験の実機評価を行う安全性能担当部署でも人員削減が進んでいたことを取り上げています。
報告書掲載の推移図では、対象人員は2010年を100%とすると2014年には40%、2019年には27%、2022年でも33%でした。
これは衝突試験の実機評価に関わる人員の推移であり、CAE解析の担当者や試験を実際に実施する担当者は含みません。委員会は人員不足に加え、法規認証の継続的な教育研修も十分ではなかったと指摘しています。

内部通報を調べるのは、問題が起きた部署自身。従業員は「犯人探し」を恐れていた
ダイハツの内部通報制度「社員の声」は、社内で周知され利用実績もあり、通報内容は経営幹部へ定期的に報告されていました。それでも、今回の認証不正を示唆する通報は一部の関連する提言を除いて見当たらず、問題が表面化した契機は外部機関への通報でした。
2022年には実際に調査に進んだ内部通報の約6割が、問題の起きた部署自身に調査を依頼する形で処理されていました。
アンケートには、通報すると部署の管理職へ確認の連絡が行くだけで、「通報者の犯人探しが始まる」といった不信感が記されています。委員会は、当事者部署による調査には利害関係が生じ得るうえ、匿名で通報しても結果が通知されない運用も、従業員の不信感を強めた可能性があると指摘しています。
報告書が指摘した背景
委員会は、過度にタイトで硬直的な開発スケジュール、現場任せで管理職が実務に関与しない状態、専門領域のブラックボックス化、法規理解の不足、認証試験を軽視する意識などを背景として挙げています。
今回拾った場面では、「一度の試験で失敗できない」状況と、「困ったときに上へ相談しても解決しない」状況が同時に現れています。報告書の付箋では、個々の不正行為と、委員会が後から行った原因分析を分けて読めるようにしています。
この記事の訂正
付箋04を「委員会の指摘」「関係者の説明」に分類し直しました。直接裏付ける試験データは見つからず、供述の信用性を評価して認定した旨を補いました(p.36–37)。付箋06の「今ある工数でどうにかする」はアンケート回答と明記し、付箋01・07・08の参照範囲も修正しました。
