何があった?
2021年、三菱電機では、可児工場で米国の第三者認証機関UL(Underwriters Laboratories)の認証に登録したものとは異なる材料を使用していた問題や、長崎製作所の鉄道車両用空調装置で顧客と合意した試験の一部を実施せず検査成績書を作成していた問題が明らかになりました。
同社は2021年7月、社外弁護士を委員長とする調査委員会を設置し、全社的な品質不適切行為の調査を開始しました。今回扱うのは、その途中段階で2021年10月1日に公表された291ページの「調査報告書(第1報)」です。
第1報では、可児工場と長崎製作所で確認された行為だけでなく、それらが長期間続いた運用、過去の品質点検で拾われなかった経緯、現場から問題を上げにくかった背景まで記録されています。この記事では後続の第2報以降の内容を混ぜず、第1報に記載された事実と証言だけを扱います。
背景情報:三菱電機(Wikipedia)
この報告書で気になった10か所
長崎製作所では、実際に試験していない量産品の検査成績書を、開発時のデータと乱数から作るプログラムが引き継がれていました。防水試験をしないまま「良」と記入し、顧客立会いの前には計測器の表示を調整することもありました。報告書に残された検査現場の作業、協力会社とのやり取り、従業員の言葉から、気になった10か所を拾います。
ページ番号は、三菱電機が公表した調査報告書の印字ページです。
ULの検査官に見せるため、虚偽の図面と「認証済みの材料」まで協力会社へ渡した
可児工場では、UL認証に登録したものとは異なる材料を使って製品を製造していました。ULによる定期確認で不整合が発覚しないよう、可児工場の技術課は協力会社にも対応を依頼していました。
協力会社へ渡されたのは、UL認証済みの材料を使っているように記載した虚偽の図面と、ULに登録されている材料そのものでした。
検査の際には、それらをULの検査官へ示し、登録材料を使っていると説明するよう依頼していました。別の協力会社はいったん虚偽説明への協力を拒否しましたが、可児工場側が改めて依頼し、最終的に了承を得ています。2016年には、その協力会社から虚偽説明をやめたいとの申し出もありましたが、早期に不整合を是正するよう努力するので協力を続けてほしいという趣旨で依頼し、了承を取り付けました。
1990年頃、乱数で検査成績書を自動生成するプログラムを作り、代々引き継いだ
長崎製作所では、車両用空調装置の量産品について、日本産業規格(JIS)で定められた環境で冷房能力試験を行わず、開発段階の試験データを流用して検査成績書を作っていました。
一度に20〜30台を受注することもあり、電圧、電流、温度、湿度、風量など多数の数値を入れた検査成績書の作成が負担になっていました。
そこで1990年頃、試験担当者の一人が、開発試験のデータを乱数で公差の範囲内にばらつかせ、量産品の検査成績書を自動生成するプログラムを作りました。
その後、プログラムの使い方は試験チームのリーダーから次のリーダーへ引き継がれました。Windows導入後には共有フォルダへ移され、各チームリーダーのPCから利用できるようになりました。報告書によれば、使用が停止されたのは2021年6月14日にプログラムが発見された日でした。
長崎製作所の設計担当経験者の説明(調査報告書より)
開発性能試験では、JIS規格が求める形式検査以外にも、リスクの潰し込みのために色々な試験をする・・・皆の意識が開発性能試験に集中していた。他方で、量産段階では開発品と同じものを作るだけ(という認識であった。)初めてプログラムを見た担当者は驚いたが、「これまでこの方法でやってきた」と引き継がれた
試験チームのリーダー経験者の一人は、前任者から引継ぎを受けたとき、初めて乱数プログラムの存在を知ったと調査委員会へ説明しています。
その人物は、実測値を何らかの方法で補正するのではなく、過去の開発性能試験の数値を使って検査成績書を作る仕組みに衝撃を受け、問題ではないかと前任者へ尋ねました。
しかし前任者からは、これまでこの方法でやってきたので、そのとおり続けるよう求められたと説明しています。
そのままプログラムの使用を引き継ぎました。95%以上なら合格にし、顧客立会いでは「100%以上」に見えるよう計測器まで調整した
開発性能試験の冷房能力試験では、JIS E 6602により、車両用空調装置の冷房能力が定格冷房能力以上、つまり100%以上であることが合格条件でした。ところが長崎製作所では、95%以上100%未満でも合格としていました。
検査成績書を作る際には、冷房能力が100%以上になるよう温度、湿度、風量を逆算し、定格以上だったように見える成績書を作っていました。
さらに顧客が試験に立ち会う場合、事前試験で定格能力に届かなければ、計測器に備わっていた測定値の調整機能を使い、実際の温度ではなく、冷房能力が100%以上になる数値が画面に表示されるよう調整してから立会い試験を実施していました。
なお報告書は、温湿度をJISが許容する最も有利な条件にすれば定格を満たすとして、この扱いを受けた製品の品質や性能に問題はないと評価しています。一方、本来は条件を変えて再試験すべきだったとも注記しています。
新規品ではやめたのに、リピート品では続けた。直すと過去の製品まで疑われるからだった
車両空調システム部の経験者らは、2010年頃、当時の部長が、定格冷房能力に届いていない製品まで合格させていることを把握し、この扱いを中止するよう厳しく指示したと説明しています。その結果、2011年頃から新規に開発する製品では、95%以上を合格にする扱いや、検査成績書・温度表示の操作は行われなくなりました。
ところが、過去に開発した製品を再び受注する「リピート生産」では、その後も続きました。
報告書によると、リピート品で「冷房能力が定格未満だから」と設計変更を行えば、それまでに納入した同型製品も定格を満たしていなかったことが発覚するおそれがあったためです。
2019年に成績書へ実測値を書くことを明記した規程へ改められた後も、リピート品では続いていました。防水試験はせず成績書には「良」。一部機種では、顧客の工場監査を理由に試験した
JIS E 6602の防水試験では、完成した車両用空調装置に1時間あたり200mm相当以上の水を10分以上かけることが定められていました。
長崎製作所では、土台部分に水をためる別の水密検査は行っていましたが、完成品に対するこの防水試験は実施していませんでした。
それでも顧客から検査成績書を求められると、防水試験の欄には「良」と記載していました。
経験者の一人は、試験そのものは10分程度で終わるものの、製品を濡らした後の処理に手間と時間がかかると説明しています。
一方、一部の製品については規定どおりの防水試験を実施していました。担当者は、その顧客が積極的に工場監査を行っていたためだと説明しています。報告書は、水密検査やシールパッキンの確認により、対象製品の性能や品質に問題はないとしています。
実測値が100MΩ未満でも「100MΩ」。理由は前回の成績書を書き換える手間だった
絶縁抵抗試験では、主回路は20MΩ以上、制御回路は5MΩ以上であれば規格を満たしていました。また、実測値が100MΩ以上の場合には、検査成績書へ一律に「100MΩ」と記載するルールがありました。
ところが長崎製作所では、実際には100MΩ未満だった場合でも、規格上の合格値を満たしていれば「100MΩ」と記載していました。
成績書は前回のものを上書きして作っており、多くの場合は計測器の針が上限まで振り切れて「100MΩ」と書かれていました。そのため、今回の測定値が仕様値を満たしていれば、数字を書き換える手間を省いてそのまま発行していました。
なお報告書は、このケースでは実測値自体は仕様値を満たしており、製品の品質や性能に問題は確認されなかったとも記しています。
寸法を測っていないのに、設計値を公差内で「適当にばらけさせた」
形状・寸法検査はJIS上すべての製品で必須というわけではありません。しかし、顧客との契約で検査を実施すると決めていた製品についても、長崎製作所では実際の検査をしていない場合がありました。
担当者からは、車両への取付部分は組立時に治具を使って厳密に合わせているため、適切な寸法は確保されていると考えていた、という説明が出ています。
それでも顧客へ提出する検査成績書には数字が必要でした。
そこで品質管理課では、設計データの数字を公差の範囲内で適当にばらつかせ、実際に寸法を測ったかのような成績書を作って提出していました。
元従業員は、1985年に品質管理業務を担当し始めた時点で、既に形状・寸法検査は行われていなかったと説明しています。報告書は、部品の加工精度と組立時の治具によって正しい寸法が確保され、対象製品の性能や品質に問題はないとしています。
自己点検は全部「○」。しかも「不正操作の余地がない」と書いたシステムでは、温度を0.5度ずつ下げられた
三菱電機は2016年度、品質上のリスクを確認するため社内点検を行いました。長崎製作所が提出した点検シートでは、車両用空調装置の冷房能力、冷房消費電力、質量・寸法、運転騒音、運転振動などについて、最終判定がすべて「○(リスクなし)」となっていました。
冷房能力の欄には、実測データなどが自動的に記録されるため「不正操作の余地がない」という趣旨まで記載されていました。
しかし実際のシステムでは、Excelへ出力される1秒ごとの温度データを0.5度ずつ低い値として記録させる操作が可能でした。
調査委員会は、「不正操作の余地がない」とした点検シートの記載は事実に反していたと指摘しています。全項目が「○」だったため、この点検を受けた特段のフォローアップや是正活動も行われませんでした。
「言ったもん負け」――改善を提案すると、言い出した本人の仕事が増えた
調査委員会の聞き取りでは、長崎製作所の従業員から、「上に言っても何も変わらない」「問題を挙げても結局自分で処理させられる」といった不満が出ていました。
ある従業員は、長崎製作所には「言ったもん負け」という文化があると説明しました。
改善案を出すと、言い出した人がその案件の取りまとめ役になります。しかし、その分だけ元の仕事を減らしてもらえるわけではありません。結果として単純に仕事が増えるため、公の場では問題を言わず、飲み会や雑談のときだけ職場の問題を話すようになっていた、という説明でした。
調査委員会は、この証言を、現場のミドル・マネジメントが十分に機能していなかったことを端的に示すものと評価しています。
長崎製作所の従業員の説明(調査報告書より)
上司は忙しすぎて、提案をしても聞いてくれないので提案をしないことにした。部長と課長は忙しすぎて電子メールも資料も見ていない。報告書が指摘した背景
本社品質保証推進部は全社的な品質保証の推進を担っていましたが、製品の出荷停止権限や事業本部への人事権は持っていませんでした(印字49ページ、注58)。
毎年11月の品質月間には、全従業員向けの品質保証研修をeラーニングで実施していました。ただし、2015年度以前の教育は品質費の削減や品質向上が中心で、品質不正に着目した教育には力点が置かれていませんでした(印字58ページ)。
この記事の訂正
付箋04には、許容される試験条件なら定格冷房能力を満たすという報告書の評価と、本来は再試験すべきだったとの注記を補いました(p.202)。付箋05の部長による中止指示は経験者らの説明と明示しました(p.201)。付箋06の「監査する顧客向けだけ」という限定を一部機種に関する説明へ改めました(p.195)。付箋08は契約・治具に関する説明を裏付けるp.198を追加し、1985年の不実施について元従業員の説明と明確にしました。
