何があった?
レオパレス21は2018年から2019年にかけて、自社が施工した共同住宅で、小屋裏などの界壁が施工されていない問題、設計図書と異なる断熱材が使われた問題、外壁や天井部が所定の仕様に適合していない問題を相次いで公表しました。
2019年2月、同社は外部の弁護士による調査を開始し、外部調査委員会を設置しました。委員会は、個々の施工不備だけでなく、商品開発、確認申請、図面作成、施工、品質管理、修繕稟議、内部監査、内部通報までを調査。2019年5月29日に本報告書を公表しました。
この記事で使う一次資料は、この日に公表された128ページの「施工不備問題に関する調査報告書」の詳細版PDFだけです。2019年7月に公表された追加調査報告書の内容は混ぜません。
この報告書で気になった12か所
施工不備の種類を順番に解説するのではなく、会社の中で実際に使われていた図面、稟議、試験、社員向けメッセージ、アンケート、監査項目を追います。
商品販売が施工マニュアルより先に始まり、支店へ渡すCAD図は「70%程度」。確認申請図には「便宜的」な記載があり、別の社内文書には行政との交渉方法が4つ列挙されていました。問題の兆候は修繕稟議や性能試験にも現れますが、内部監査や内部通報にはつながりませんでした。
ページ番号は報告書本文に印字されたページです。
施工マニュアルより先に商品を販売。本店から支店へ送るCAD図は「70%程度の完成度」だった
6シリーズが開発・販売されていた当時、商品開発担当部署は、新シリーズの開発や既存シリーズの仕様変更を頻繁に進めていました。委員会によると、業務量は多く、施工マニュアルの作成より前に商品の販売が始まることもありました。
ここでいう界壁は、住戸どうしを防火・遮音のために仕切る壁です。報告書の37ページでは、小屋裏や天井裏まで隙間なく区切る必要があると説明されています。
そのため、本店側では小屋裏等界壁が必要だと考えていても、支店へ送るCAD図で必要性が明確になっていなかったり、施工マニュアル自体がまだ支店や施工業者へ配られていなかったりする状態で、設計や施工が先へ進むことがありました。
本店のCAD設計担当部署から支店へ送られる図面は、もともと「70%程度の完成度」とされ、残りは支店側が個々の物件や地域事情に合わせて仕上げていました。
支店から「界壁を作らなくていいのか」と問い合わせが来た際には、本店が図面を修正することもあれば、支店で手書き修正するよう指示することもあったと報告されています。
小屋裏の「界壁」は造らない前提。それでも確認申請図には造るように描いていた
ネイルシリーズ(トラス以外)について、レオパレス21は小屋裏等界壁を施工する必要はないと考えていました。一方、複数の建築主事からは界壁を施工するよう指導を受けていました。
それにもかかわらず、確認申請図の断面図では「便宜的に」界壁を施工するかのような記載が使われていました。
外部調査委員会は、この行為を、会社として建築主事から確認済証を「言わば騙し取る行為」であったと評価しています。
これは報告書の委員会による評価です。委員会はさらに、複数の建築主事から指導を受けた段階で、自社の「界壁は不要」という考え方そのものを見直すべきだったと指摘しています。
社員向けメッセージに「行政への交渉は、①脅す、②裏から手を回す」
外部調査委員会は、建築確認申請手続を軽く扱っていた例として、営業担当の取締役が社員へ発出したメッセージも取り上げています。
報告書の52ページには、2009年11月27日付で当時の西日本第1営業部取締役が作成した「37期売上達成に向けての留意点」という文書名も記されています。売上達成や工期短縮を指示する内容で、行政への交渉方法を4つに分けていました。
具体的には、①脅す、②裏から手を回す、③施主(地権者)に役所へ同行してもらい直接頼む、④地元オーナーに役所へ同行してもらい頼む、の4つです。
委員会は、このメッセージも、適正な建築確認申請手続より工期短縮を優先するかのような指示として、建築確認申請手続の軽視が見て取れるエピソードだとしています。
2011年、法的に必要な界壁がない修繕を社長が承認。6年後、別物件の「防火性能が欠如」は部長の「必要性再検討」で止まった
2011年3月、横浜支店から出された修繕稟議には、会社側の指示不足によって、法的基準として必要な小屋裏等界壁が未施工だったことが発覚した、と記載されていました。この稟議は取締役4人の承認を経て、社長が最終承認しました。
2017年7月には、別の物件について、小屋裏に界壁がなく「防火性能が欠如」しており、会社負担で改修する必要があるとする稟議が出されました。
ところが2017年の稟議は、部長が「必要性再検討」とコメントして否認し、そこで手続が止まりました。
否認の根拠になったのは、以前の姫路訴訟の際に作られた社内資料を焼き直した文書でした。外部専門家へ相談して作成されたものではありません。委員会は、こうした複数の機会に会社全体で再検証すべきだったのに、実質的な検討がなされず、問題発見の機会を逸したとしています。
遮音試験は不合格で正式報告書を受け取らず。また、60分の耐火試験は51分で中止された
発泡パネルについては、販売開始後に複数の性能試験が行われました。
1999年5月の遮音性能試験では、特定の周波数が基準を下回り、不合格となったことが速報の記録に残っています。
担当者は委員会に、結果が悪かったため正式な報告書を受け取らずに済ませたと説明しました。
同年9月には、外壁の耐力壁について1時間の耐火性能試験が行われました。この試験は、加熱によって裏面最高温度が規定値を超えたため、60分に達する前の51分で中止されました。
この耐火試験の試験体は、面材を鉄骨躯体にビス留めした壁パネルでした。商品開発担当部署の関係者は、これらの試験は、実際に界壁・外壁に使っていた発泡パネルとは別仕様のパネルを対象としたものだったと説明しています。
また、87ページの脚注には、2000年に2棟の界壁で行われた遮音試験では、いずれも告示の性能要件D-40を満たした結果があったと記されています。一方、防耐火については、1996年の社内会議の議事録にも認定取得が必要と記されていました。委員会は、実際に界壁・外壁へ使用していた発泡パネルについて大臣認定が取得されていなかったと整理しています。
商品や図面が整う前に進める。社員は「とりあえずやってみよう」「やってみてから直していこう」と表現した
外部調査委員会は6,173人の役職員へアンケートを送り、3,519人から有効回答を得ました。報告書には、回答の具体例が原文のまま多数掲載されています。
その一つは、事前検討が浅いことを指摘する回答でした。
回答者は、社内には「とりあえずやってみよう」「やってみてから直していこう」という風土があると書いていました。
別の回答にも、施工マニュアルや一般図が整備される前に商品が「見切り発車的」に発表され、担当者が十分な商品知識を持たないまま経験に頼って仕事をせざるを得なかった、と記されています。
これらは社員アンケートの回答であり、個々の記述を委員会が独立に事実認定したものではありません。
「施工図面無しで、やれ!」。工程会議は「どうしたら前倒し出来るか」に終始
社員アンケートには、施工現場と工程について、さらに具体的な回答もありました。
ある回答者は、15年ほど前までは下請工務店に対し、施工管理側が図面を渡さずに工事を進めさせることがあり、下請側が何が正しいか尋ねても答えてもらえなかったと振り返っています。
その回答では、下請工務店に「施工図面無しで、やれ!」と言っていたと記されています。
別の回答者は、毎月の工程会議が、無理を承知で「どうしたら前倒し出来るか」という話に終始し、設計・工事の双方が追い詰められていたと回答しました。
これらも社員アンケートに記された関係者の説明として扱います。
内部監査は現金や印紙まで細かく確認。ところが、建物が法律どおりかは監査対象外だった
レオパレス21には施工不備が発生していた時期から内部監査部門がありました。委員会が確認した2005年の監査計画では、現金、預金、印紙・切手、重要鍵、テレホンカード、IDカード・社員バッジなど、かなり細かな資産管理まで監査対象になっていました。
その一方で、「工事課」という項目で見るのは基礎工事などの見積書でした。建物が建築関係法令に適合しているかどうかは、監査対象になっていませんでした。
当時の元内部監査室長は、建築確認を受けて建っている以上、確認どおりの建物だろうと「性善説」で考えていたと思う、と委員会に説明しています。
委員会は、この「性善説」的な考えが内部監査担当者に広く共有されていたことが、施工不備を内部監査で発見できなかった理由だと分析しています。
「コンプライアンスなんて関係ないんだ」と口にする取締役がいた
報告書は、2006年に導入された内部通報制度の運用について、当時のコンプライアンス統括本部法務部長の説明を掲載しています。
法務部長によれば、以前は管理職のコンプライアンスや内部通報制度への理解が十分ではなく、通報を受けて行為者へ注意すると、内部で「犯人捜し」がされると聞くことも少なくなかったといいます。
さらに、約10年前には「コンプライアンスなんて関係ないんだ」と堂々と口にする事業系の取締役もいた、と説明しています。
ただし同じ法務部長は、法務部の啓発活動が進み、ここ数年はそのような発言や「犯人捜し」を聞くことはなくなったとも述べています。
12年間で1,087件あった内部通報。施工不備に関するものは1件もなかった
報告書によると、施工不備の発覚後、監査役会は内部通報制度が始まってから2018年10月29日までの12年間の通報を調べたとされています。法務部長も「界壁」などのキーワードで検索したと説明しています。
監査役会の調査結果として、対象となった内部通報1,087件に、施工不備に関する通報は一件もなかったと報告されています。
内部通報制度自体は2006年に創設されており、多くの施工不備が発生した時期にはまだ存在していません。この数字だけで、発生当時に通報が握りつぶされたとすることはできません。
一方、後年の物件補修の稟議には界壁未設置が法令違反だと指摘するものが複数ありました。委員会は、それでも内部通報へつながらなかったことから、制度の機能が完全だったとは言えないとしています。
法務部長は、その理由について、制度がもともとパワハラ対策として導入された経緯の影響を挙げています。社員の多くが、内部通報を「自分が被害を被っている状態を打開するための道具」と捉え、自分自身に直接の被害はなくても会社のコンプライアンス上問題のある事柄を正すための制度、という意識が少なかったのかもしれない、と説明しています。
「大工が集まらないなら“だいはち”でも“だいなな”でも」。そんな冗談が社内で交わされていた
委員会が全体的な原因を整理した章では、請負建築事業の急成長に対し、商品開発、施工、品質管理、工事監理の体制が追いつかなかったと分析されています。
施工業者の確保もその一つでした。
報告書には、「大工(だいく)が集まらないなら“だいはち”でも“だいなな”でも構わないから集めてきてくれ!」という冗談が社内で交わされるほどだった、と記されています。
同時に、主任技術者の資格を持つ社員も施工物件数に対して慢性的に不足し、一級建築士も大幅に不足していたと委員会は整理しています。
委員会が全体像を表した言葉は「走りながら考える」。社員からは「深山氏と、それ以外」という説明も
外部調査委員会は、施工不備を生んだ全体的・本質的な背景として、経営危機からの脱却と請負建築事業の拡大が最優先されたことを挙げています。
当時を振り返った役職員の一人は、施工物件数の拡大が目標になり、社内のどの部署も「走りながら考える」状態だったと説明しました。
委員会は、それを「走りながら考える」というより、本来なら走り始める前に考えるべき問題を置き去りにし、途中で問題に気付いても放置する状態だったと評価しています。
さらに委員会は、経営トップの意向が強く推し進められるワンマン体制も分析しています。役職員の中には、当時の会社には「深山祐助氏と、それ以外の社員という区別しかなかった」と説明する人もいました。
委員会は一方で、深山氏が違法性を認識した上で違法な指示をしていたことを裏付ける客観的資料は発見されなかったとも明記しています。
報告書が指摘した背景
委員会の提言には、経営陣と従業員の研修を合同で行うことや、経営陣が現場社員の研修に同席して講評することも含まれています。経営陣の姿勢を社員に示すための具体策として挙げられたものです(本文121ページ)。
また、具体的なケーススタディーやこの報告書そのものを教材にする研修を提案し、再発防止のルールが守られているかを定期的に確認し続ける仕組みづくりも有益だとしています(本文122ページ)。
この記事の訂正
付箋02の見出しを住戸間の界壁全体ではなく小屋裏の界壁に限定しました(p.114)。付箋05の参照をp.88–89からp.86–88へ訂正し、試験体の仕様に関する説明と、2000年の別の遮音試験がD-40を満たしたという脚注を補いました。付箋01の記述と付箋10の通報調査について、委員会の指摘・関係者の説明を区分し、1,087件の結果は監査役会の調査結果として報告されたものと明示しました(p.61、109–110)。ほかの参照範囲も補いました。
