何があった?
米国のWells Fargoで、顧客の承認のない口座開設などの営業不正が続いていました。2016年の当局との和解後、独立取締役が営業現場と社内の対応を調べた報告書です。
背景情報:ウェルズ・ファーゴ(Wikipedia)
この報告書で気になった12か所
「1月に飛び込もう」という営業キャンペーン、顧客アンケートを避けるための電話番号の書換え、全社のリスク責任者へ相談した部下を止める指示。報告書には、口座の件数だけでなく、数字を追わせる現場の運用と、問題が経営陣へ伝わる途中で何が起きたのかが具体的に残っています。その違いが見える12か所です。
達成できるのは半分程度と分かっていた「50/50 plans」
Community Bankの営業モデルでは、毎年の販売件数を伸ばすことが強く求められていました。営業目標はCommunity Bankの経営陣が設定し、地域、支店、個人へと順に下ろされました。
報告書によると、経営側は一部の計画について、そもそも達成困難であることを認識していました。
社内では、全地域のうち達成できるのは半分程度という想定から、こうした計画を「50/50 plans」と呼んでいました。
目標が設定された後は、従業員同士が達成度で順位付けされ、インセンティブ報酬や昇進の機会も目標に対する実績と結び付けられました。報告書は、この仕組みが強い営業圧力を生み、一部地域では管理職がさらに過度な圧力を加えたとしています。
「Jump into January」では、友人・家族を営業対象にし、12月の口座を1月まで待たせた
2003年に始まった「Jump into January(1月に飛び込もう)」は、年初から営業成績を伸ばすためのキャンペーンでした。1月には通常より高い日次販売目標が課され、高い販売活動が強調され、報酬の対象にもなりました。
複数の関係者は、キャンペーンが時間とともに変質し、不適切な行動を生みやすいものになったと説明しています。
従業員は友人や家族を1月の見込み客としてリスト化し、12月の口座開設を1月まで一時的に保留する「sandbagging」も行っていました。
FTI Consultingの分析では、2008年以降、1月の新規口座の入金率は各年とも月平均を下回っていました。1月には従業員の離職も増え、一部地域では有給休暇や研修を入れない運用もあったと報告されています。
「Fly into February」「March into March」――営業キャンペーンは1月だけで終わらなかった
アリゾナでは、1日に複数回の営業結果確認や、定期的な販売強化の日が設けられ、「Jump into January」のような営業キャンペーンが年間を通じて続いたと複数の関係者が説明しています。報告書には「Fly into February(2月へ飛ぼう)」「March into March(3月へ進もう)」といった呼び方も登場します。
一部の管理職からは、実際の顧客ニーズとは関係なく、同じ日に複数口座を開く売り方への懸念も寄せられていました。
品質面で使われていた指標の一つがRolling Funding Rateです。これは、新しく開いた当座・普通預金口座に顧客が一定額以上を入金した割合を見るものでした。
アリゾナ責任者は、100%の入金率を追う機会損失を指摘し、支店では最低基準の87.5%を上回るよう管理する方針を示していました。
報告書は、このアリゾナの責任者が高い営業実績を上げ、社内会議で手法を紹介したり、他地域の幹部が視察したりしていたことも記しています。
報告書掲載の社内メール(原文)
2007年8月、ロサンゼルス地域責任者Shelley Freemanがチームの営業成績について送ったメール
I hate numbers that start with 9! I like ones that have three digits and start with a 1, as in 105 or 110.本サイトによる訳9で始まる数字は大嫌い! 105や110のように、3桁で1から始まる数字が好きです。
Tolstedt自身が2004年には「販売件数だけで報酬を付ければ問題になる」と警告していた
Community BankトップとなるCarrie Tolstedtは、2004年の時点で、販売件数だけを基準にしたインセンティブ制度の危険性を認識していました。
John Stumpfへのメールで、クロスセルには適切なインセンティブ制度と別の指標を組み合わせる必要があり、販売件数だけで銀行員へ報酬を付ければ「asking for trouble(問題を招く)」と指摘しています。
さらに、一つの指標だけを見れば、低価値で入金されない質の低いクロスセルを招くとも書いていました。
報告書は、この2004年の助言を紹介した直後に、Tolstedtはその後「自らの助言に従わなかった」と評価しています。
これは2004年時点で後年の無断口座問題を予見していた、という意味ではありません。一方で、販売量だけを追う評価・報酬制度が不適切な行動を生み得るというリスク自体は、早い段階から認識されていました。
ある支店長の家族には、合計81口座があった
Shearman & Sterlingは、2008年から2016年に解雇・退職へつながった内部調査記録のうち1,341件をレビューしました。そこでは、顧客の承認なしの口座開設、顧客情報の改ざん、資金の付け替え、顧客ニーズのない口座開設など、さまざまな営業不正が確認されています。
内部調査記録では、目標達成のため家族や友人名義で口座を開く「friends and family accounts」も頻繁に登場しました。
一例として、ある支店長には、10代の娘24口座、成人した娘18口座、夫21口座、兄弟の一人14口座、父4口座――家族だけで合計81口座がありました。
ただし、報告書はこの81口座すべてが顧客の承認なしに開設された不正口座だったとは認定していません。家族・友人名義の口座が営業目標達成に使われた事例の文脈で示された数字です。
顧客アンケートを避けるため、少なくとも192件の電話番号を削除した支店があった
内部調査記録には、営業件数を作るだけでなく、その後の品質確認を回避するための操作も残っています。
一部の従業員は、顧客が低いアンケート評価を返すのを防ぐため、顧客の電話番号に偽の番号を入力したり、顧客のメールアドレスを自分のアドレスへ置き換えたりしていました。
ある支店長は部下にも同様の操作を指示し、顧客アンケートを回避するため、少なくとも192件の顧客電話番号が削除されました。
これはWells Fargo全体で192件だったという意味ではなく、内部調査記録に登場する一つの支店の事例です。
社内プロジェクトは2012年に「評価制度が不適切な営業行為を生んでいる」と報告していた
Community Bankの人事責任者Debra Patersonは2011年、営業不正の原因を調べ、対策を提案する社内プロジェクトを始めました。人事、内部調査、営業、コンプライアンス、法務などの部門が参加しています。
プロジェクトは2012年、Tolstedtの経営チームへ結果と提言を提出しました。
プロジェクトは、支店長・地区責任者が使う従業員評価制度が営業圧力と「仕事を失う恐怖」を生み、不適切な営業行為を促していると報告しました。
プロジェクト責任者は、営業目標をこれ以上引き上げないこと、窓口担当者の紹介目標をなくすこと、インセンティブ制度の変更を検討することなどを口頭で提言しました。
しかし、窓口担当者の紹介目標は廃止されず、2013年の営業目標もわずかな引き下げにとどまりました。インセンティブ報酬の資格基準に組み込まれた営業目標も、2014年まで変更されず、その変更も小幅だったと報告書は記しています。
営業圧力を最高リスク責任者に相談した部下へ「もう話すな」と指示した
報告書は、TolstedtがCommunity Bankについての否定的な情報を強く管理し、外部部署への情報提供を積極的に抑えたと評価しています。
その具体例として挙げられているのが、地域責任者Lisa Stevensと最高リスク責任者のMichael Loughlinとのやり取りです。
Stevensは営業目標や営業圧力への懸念をLoughlinに相談しました。それを知ったTolstedtは、Stevensへ連絡しました。
報告書によると、TolstedtはStevensに対し、Loughlinを含むCommunity Bank外部の人々と話すのをやめるよう指示しました。
別の箇所では、TolstedtがStevensへ、Loughlinとはもう話さず「toe the line(方針に従う)」よう伝えたというStevensの説明も記載されています。
Tolstedt本人は弁護士の助言に基づき調査インタビューを受けていないため、記事では関係者の説明と委員会の評価を区別して扱います。
「社内通報も不正確認も増えている」との警告に、「実態よりずっと悪く聞こえる」と返した
企業セキュリティ部門の責任者Michael Baconは2012年、営業上の規則違反をめぐるデータについて、社内通報窓口EthicsLineへの報告、経営陣宛ての苦情、確認された不正が増えており、経営上層部へ引き続きエスカレーションする必要があると書きました。
これに対して、Community Bankのリスク責任者Claudia Russ Andersonは、Baconの報告表現に異議を唱えました。
Russ Andersonは、Baconの報告では問題が「実態よりずっと悪く」聞こえると返しました。
報告書は、Russ Andersonについて、営業上の規則違反の問題と関連する解雇を取締役会や全社リスク管理委員会へ十分にエスカレーションせず、透明性を欠いたと評価しています。
CEOは年間約1,000人の解雇を「1%だけ=99%は正しく働いている」と受け止めた
CEOのJohn Stumpfは遅くとも2013年末までに、Community Bankで年間約1,000人、従業員のおよそ1%が営業上の規則違反を理由に解雇されていることを知らされていました。
報告書によると、Stumpfはこの1%という数字を肯定的に受け止めました。
Stumpfは、解雇されているのが1%だけなら、残る99%の従業員は正しく仕事をしていると考えました。
報告書は、Stumpfが2013年や2014年に、この数字を受けて追加調査を始めた形跡はないとしています。
2015年5月、ロサンゼルス市の司法当局が訴訟を起こした後の社内メールでも、Stumpfは約1%という数字を挙げ、問題について「This is not systemic.(組織全体に及ぶ問題ではない)」と書いていました。
一方、調査インタビューでは、Stumpfは振り返れば1%でも高すぎたと認めています。
取締役会には「230人」と説明。実際には部門全体で毎年1,200人超が解雇・退職
2015年5月、ロサンゼルス市の司法当局による訴訟を受け、取締役会のリスク委員会は営業慣行の問題を詳しく説明するよう経営陣へ求めました。
Stumpf自身も、営業不正で解雇された人数や割合、顧客被害への対応など、具体的な数字を資料へ入れるよう指示しました。改訂案には、2013年と2014年に地域銀行従業員の約1%が営業不正で解雇されたという記載がありました。
しかし、会議前の電話協議で1%という記載は削除されます。
5月19日のリスク委員会への説明では230人という数字が示されましたが、内部調査部門が把握していたCommunity Bank全体の2013年と2014年の営業慣行違反による解雇・退職者数は、それぞれ1,229人と1,293人でした。
230人という数字自体が虚偽だったわけではありません。2013〜2014年に南カリフォルニアから全小売銀行へ拡大した特定の調査で解雇された人数です。
ただしリスク委員会は全体の解雇数を求めていました。報告書は、すぐ利用できた全体集計を示さなかったことで、問題の規模について不正確な印象を作ったと評価しています。複数の取締役も、後にこの説明で誤解させられたと述べました。
リスク委員会への説明(報告書の原文)
2015年5月19日、経営陣が取締役会リスク委員会に伝えた説明
Wells Fargo’s controls had been effective in detecting improper behavior本サイトによる訳Wells Fargoの管理体制は、不適切な行為を見つけるうえで有効に機能していた
取締役会が約5,300人という累計規模を知ったのは、規制当局との和解だった
2016年に入ると、取締役会へ示される数字は徐々に具体的になります。5月には監査・検査委員会が、Community Bankにおける営業上の規則違反関連の解雇・退職者数として、2014年1,327人、2015年960人という数字を初めて受け取りました。
付箋11の2014年分1,293人は2015年の説明準備時の集計で、ここでの1,327人は2016年5月の報告に登場する集計です。報告書の該当箇所では、この差の理由は説明されていません。
しかし、さらに長い期間を通じた累計規模を取締役が知るのは、社内報告ではありませんでした。
2016年9月8日のCFPB、OCC、ロサンゼルス市の司法当局との和解を通じて、取締役会は2011年1月1日から2016年3月7日までに約5,300人のWells Fargo従業員が営業慣行違反で解雇されていたことを初めて知りました。
約5,300人すべてが顧客の承認なしに口座を開いたことで解雇されたわけではありません。報告書でいう営業慣行違反には、顧客同意、記録改ざん、資金操作、不要口座、販売実績の操作など複数の類型が含まれます。
この和解の後、取締役らは小売部門の商品販売目標の廃止を求めました。経営陣は9月13日に廃止を発表し、当初2017年1月としていた実施日は、取締役会の要請で2016年10月1日へ前倒しされました。
報告書が指摘した背景
独立取締役は、Community Bankの営業文化・業績管理制度に加え、「自分が所有する事業のように運営せよ」という強い分権型組織を問題視しています。事業部門は外からの監視に抵抗し、管理部門も個別案件の処理にとどまって、全体の規模を捉え損ねたと評価しました。
Stumpfは営業モデルを疑うのが遅れ、取締役会も2014年以降に関与を強めながら、具体的な行動計画や測定指標の乏しい報告に、さらに詳しい説明を求めるべきだったとしています。
出典は2017年4月10日公表の独立取締役調査報告書。日本語は当サイトによる翻訳・要約です。旧公式PDFが404のため、出典リンクはSEC EDGAR収録版の全文を使用し、ページは本文の印字番号を示しています。
この記事の訂正
SEC EDGAR提出版の印字ページと照合し、付箋01–04・06・08・10–12の参照範囲を訂正しました。例えば電話番号192件の削除はp.38、取締役会に誤解を与えたとの評価はp.106にあります。付箋09には、本文に含まれる委員会評価の区分を追加しました。役職・部署名と短い英語の発言にも日本語訳を補いました。
