何があった?
中古車販売・修理会社のビッグモーターでは、事故車両に本来必要のない修理を行ったり、実施していない作業や使用していない部品を請求したりするなど、自動車保険金の不正請求が行われていました。損害保険ジャパンは2022年、他の損保会社とともにビッグモーターへの入庫紹介(DRS:Direct Repair Service)をいったん停止しましたが、追加調査を十分に行わないまま、同年7月に自社だけ先行して再開しました。
SOMPOホールディングスは2023年8月7日、弁護士3人による社外調査委員会を設置しました。委員会は資料・メール等の解析、関係者78人へのヒアリング、社内外アンケートなどを実施し、DRS再開判断、損保ジャパンの内部統制、親会社への報告、現場と経営層の情報格差などを検証しました。2024年1月16日に公表された最終報告書は87 PDFページです。
この報告書で気になった12か所
この報告書は、ビッグモーターの不正請求だけでなく、その兆候を知りながら入庫紹介の再開へ進んだ損保ジャパン内部の動きが具体的です。「資源性の高い工場」という社内用語、書き換えられた調査シート、午前8時と11時で変わった対応方針。何が伝わり、どこで判断が変わったのかが見える12か所です。
保険を多く返してくれる工場は『資源性の高い工場』と呼ばれていた
DRSは、事故に遭った顧客へ修理工場を紹介する制度です。報告書によると、紹介を受けた整備工場の中には、その見返りとして損保ジャパンの商品を優先的に扱うところもありました。
こうした効果が高い整備工場は社内で独特の言葉で呼ばれ、営業部門を中心に重点的な入庫紹介の対象になっていました。ビッグモーターも、各損保会社からのDRS件数に応じて自賠責や任意保険を配分していました。
保険の取扱い増加につながる整備工場は、「資源性の高い工場」などと呼ばれていました。
委員会は、DRSで本来想定されていた顧客満足や保険金支払業務の効率化より、営業施策としての側面が強く重視されるようになったと整理しています。
32工場中24工場が不良。その翌年は、調べた30工場すべてが『黄』か『赤』だった
損保ジャパンは、ビッグモーター各工場の見積りや修理品質をモニタリングしていました。2020年度は、上期・下期とも32工場中24工場が不良と判定されています。
2021年度上期には対象30工場を簡易診断し、15工場が「黄」、15工場が「赤」。つまり、調べた30工場すべてが不良判定でした。
2021年度上期は、調べた30工場すべてが「黄」か「赤」でした。
報告書は、こうした結果が出ていたにもかかわらず、簡易調査の継続や追加検証の判断に多数の不十分な点があったと指摘しています。
出向者から『この請求をするから、この作業をしろ』という情報が上がっていた
2020年12月、ビッグモーターへ出向していた損保ジャパンのアジャスターから、損保ジャパンのビッグモーター担当保険金サービス部の物損統括へ、同社内部の状況について具体的な情報が共有されました。数字目標を達成するため、本来不要な作業まで実際に行って請求する動きが出ている、という内容でした。
さらに、請求額を先に決め、その金額に合わせる作業を現場へ指示するような事態が始まったようだとも伝えられていました。報告書は、この物損統括から他の損保ジャパン役職員へ同じ情報が共有された事実は確認できなかったとしています。
出向者から、「この請求をするから、この作業をしろ」と現場へ指示が飛び始めたようだという情報が共有されていました。
同じ頃、工場長が幹部からのグループLINE上の叱責を恐れて売上を捻出しようとし、それが不正につながりかねないという懸念も担当営業部へ報告されていました。
関係者の説明(報告書より)
2020年12月、出向者から損保ジャパンの統括担当者へ伝えられた情報。委員会が内容を要約した記述
数字目標を達成するため、やらなくていい作業を実際にやることで請求するようになってきた(あたかも損傷していたかのようにパテを塗って塗装をし、または塗装だけするなど)。
『工場長の指示あり』は、『指示なし』に書き換えられた
2022年、損保3社がビッグモーターへ自主調査を求めました。調査担当者が作成したシートには、工場長から不正な指示があったことを示す内容が記載されていました。
しかし、ビッグモーター幹部の指示で、その部分などが書き換えられました。損保ジャパンの出向者は、書換え前と書換え後のシートを損保ジャパン側へ送り、違いがあることも伝えていました。
工場長からの指示があった部分は、ビッグモーター側の指示で書き換えられていました。
7月上旬までには、損保ジャパンの社長以下の経営陣にも、その概要が共有されていました。
朝8時は『対象24工場を追加調査』。11時からの会議では再開へ変わった
2022年7月6日午前8時からの事前打合せでは、DRS停止による売上減少を受け入れてでも、対象となるビッグモーター24工場すべてに追加の自主調査を求める方向性が確認されました。
ところが、同じ日の午前11時から11時30分に開かれた役員ミーティングでは、社長から再発防止策を重視してDRSを再開する案が示されます。最終的に異論をとどめる者はいませんでした。
午前8時には追加調査の方向でした。午前11時からの会議では、正反対の再開方針が決まりました。
委員会は、この結論の変化を「急転直下」と表現しています。
再開を決める予定ではなかった。資料もなく、法務・コンプライアンスも広報もいなかった
午前11時からの役員ミーティングは、もともとビッグモーター社長の来訪時の対応を話すために設定されたものでした。DRS再開という重要事項を議論する予定ではなく、そのための資料も用意されていませんでした。
さらに、法務・コンプライアンスなどのけん制部門や広報部門からの出席者もいませんでした。
再開を決めるための会議ではなく、資料も、けん制部門や広報部門の出席もありませんでした。
それでも約30分で再開方針が決まりました。委員会は後の原因分析で、この会議は重要な経営判断を下すにふさわしい体をなしていなかったと評価しています。
金融庁には、自主調査が書き換えられていた事実を報告しなかった
2022年7月19日、損保ジャパンの調査部は金融庁へ、法務・コンプライアンス部は関東財務局へ、それぞれ書面を提出し、ビッグモーターへのDRSを再開する方針を報告しました。
しかし、書換え前の調査シートが存在することや、損保ジャパン側が書換え前後の違いを認識していたことは、その報告に盛り込まれませんでした。
自主調査シートが書き換えられた事実は、金融庁への報告に含めませんでした。
金融庁向けの資料には、調査結果と提供情報に差異が残るが、自認がなかったため工場長からの指示があったとは認定できなかった、と記載されていました。
他の損保2社から厳しく批判された。その深刻さは社長まで十分には伝わらなかった
DRS再開前、損保ジャパンは他の損保2社へ再開方針を伝えました。2社からは、追加調査を行わないまま損保ジャパンだけが再開することについて厳しい批判や追及を受けました。
その反応は社長にも一応報告されましたが、具体的で詳細な内容ではありませんでした。
他の損保2社から厳しく批判されたものの、その深刻さは社長まで十分に伝わりませんでした。
委員会は、この報告の不十分さも、再開方針を再考する機会を逃した一因になった可能性を指摘しています。
調査委員会の記述
調査委員会の記述。後半はビッグモーター従業員の供述についての記録(引用末尾は省略)
DRSの再停止のためには、新たにBMの組織的関与が判明するなどの大義名分が必要となるとして、直ちにDRSを再停止しなかった。 その後、乙社が自主的に調査を継続した結果、BM01店の従業員から、工場長の指示により作業指示書に記載されている不必要な作業を行い、水増し請求が行われていた[以下略]
法務・コンプライアンス部は情報を知っていた。でも『所管外』だと考えていた
法務・コンプライアンス部は2022年2月頃から問題を把握し、7月6日までには、工場長の指示があった部分などが自主調査シートから書き換えられたことも部長まで概要が伝わっていました。
それでも積極的に関与せず、内部管理の委員会でも取り上げませんでした。担当部長は、整備工場の不正請求であって保険募集人が関与していないため、基本的には別部門の案件で、法務・コンプライアンス部の所管外だと認識していたと説明しています。
情報は入っていましたが、法務・コンプライアンス部では「所管外」という認識がありました。
委員会は、責任を持って主体的に対応する部署が判然とせず、コンプライアンス体制が機能不全を起こしていたと評価しています。
30分で決めた再開は、取締役会に事後報告すらされなかった
DRS再開は、大型代理店との取引と顧客への修理工場紹介に関わる重要な経営判断でした。しかし、正式な経営会議で慎重に審議されたのではなく、非公式な役員ミーティングの成り行きで決定されました。
さらに、この判断は事後に取締役会へ報告されてもいませんでした。
委員会は、この方針決定のあり方を「お粗末と言わざるを得ない」と評価しています。
報告書の脚注では、保険金サービス企画部長が追加調査の必要性を述べたものの、最終的には再開への異議をとどめることができなかったと補足されています。
親会社SOMPO HDは、批判記事が出るまで問題を知らなかった
損保ジャパンでは2022年初めからビッグモーターの不正請求問題への対応が進み、7月にはDRS再開まで決めていました。
一方、親会社のSOMPOホールディングスへ最初に報告されたのは、再開を批判するオンライン記事が出た8月29日でした。それまで親会社側は、この不正請求事案を認識していませんでした。
親会社への最初の報告は、DRS再開を批判する記事が出た8月29日でした。
その後の報告にも、自主調査シートが書き換えられていたことなどのマイナス情報は含まれず、損保ジャパン側の対応の正当性を説明する内容が中心だったと委員会は指摘しています。
委員会は『自らの愛車』をそこへ修理に出せるのか、と問いかけた
原因分析で、委員会は、品質保証ができない段階でDRSを早期再開したことは顧客利益の軽視との評価を受けてもやむを得ないとしています。その根底には、顧客利益よりもトップラインやシェア確保、代理店対応を優先する意識があったと分析しました。
そして、抽象的な「顧客目線」という言葉ではなく、役職員自身に置き換えた問いを記しています。
ビッグモーター工場の品質を知る損保ジャパンの役職員は、自らの愛車の修理でも、そこへの入庫紹介に納得するのか。
委員会は、真の顧客利益を最優先することは、自動車保険制度を担う者が忘れてはならない事柄だと結んでいます。
報告書が指摘した背景
委員会は、生産性向上のための大幅な人員削減が、保険金サービス部門の機能を弱めたと分析しています。人員不足で工場のモニタリングが十分に行われず、本来は「一般調査」に切り替えるべきビッグモーターの工場でも、「簡易調査」が続いたと指摘しました(印字58–59ページ)。
この記事の訂正
付箋03の情報提供先をビッグモーター担当保険金サービス部の物損統括と明確にし、他の役職員への同じ情報の共有は確認できなかったとの留保を補いました(p.27)。付箋05の24工場は今回の対象工場であり、ビッグモーターの全工場を指す表現を訂正しました(p.41–42)。付箋07は金融庁への報告内容を記録された事実として示し、付箋10には追加調査の必要性を述べた部長も最終的な再開への異議をとどめられなかったという脚注の留保を補いました(p.53–54)。
