何があった?
小林製薬は2024年1月15日、同社の「紅麹コレステヘルプ」を摂取していた患者の急性腎不全について医師から最初の連絡を受けました。2月1日には別の医師から3症例の連絡があり、その後も健康被害に関する情報が集まりました。同社は原因調査を続け、3月22日に紅麹関連3製品の使用中止の呼びかけと自主回収を公表しました。
小林製薬の取締役会は4月26日、症例報告後の事実経過と、内部統制システム・品質管理体制を調べる事実検証委員会の設置を決定しました。委員会の調査報告書は7月22日付で、翌23日に会社から公表されています。この報告書は、健康被害の医学的な原因を最終確定するものではなく、会社がどのような情報を持ち、どのような会議やルールの下で対応していたかを中心に検証しています。
背景情報:小林製薬(Wikipedia)
この報告書で気になった11か所
医師から届いた健康被害の情報にどう答え、会議で何を検討し、経営陣へいつ伝わったのか。録画も議事録も残らなくなった会議、会長の自宅へ紙で届けた報告、工場の品質管理を担う人員の少なさなど、社内で実際に何が行われていたのかが見える11か所です。
急性腎不全の症例を把握していたが、別の医師には『急性腎不全の副作用の報告はない』と答えた
2月1日、B医師は小林製薬に3症例を連絡し、尿細管間質性腎炎に関する情報がほかにないか確認を求めました。お客様相談室は社内確認の後、「今までのところ急性腎不全の副作用の報告はない」と回答しました。
しかし会社には、1月15日の時点で、製品を摂取していた患者が急性腎不全を起こしているというA医師からの報告が入っていました。その内容は情報管理システムに記録され、安全管理グループ内ではメールでも共有されていました。
すでに別の急性腎不全の報告が社内にあったことは、B医師には伝えられませんでした。
委員会は、これを伝えていればB医師からさらに深刻な問題提起があった可能性があるとして、お客様相談室内の情報共有のあり方に問題があったと指摘しています。
行政報告は『因果関係が明確な場合に限る』――2020年頃から使われていた社内解釈
小林製薬は、機能性表示食品を摂取した人に健康被害が生じた場合でも、行政へ報告するのは製品との因果関係が明確な場合に限る、という解釈を採っていました。
委員会が確認した行政文書には、この解釈を直接支える記載はありませんでした。また、安全管理部はこの解釈を採用する際、行政機関や弁護士などへ相談していませんでした。
行政報告を行うのは「因果関係が明確な場合に限る」という解釈が、2020年頃から社内で使われていました。
小林製薬では、業務執行の重要事項を審議するグループ執行審議会(GOM:Group Operation Meeting)を原則月4回開いていました。2月13日のGOM資料にもこの解釈が記載され、その後の対応判断の前提になっていきます。
自由な意見を出すため『録画しない』。その後、議事録も残らなかった
報告書によると、2月20日のGOMでは、製品回収の要否など機微な内容を議論する際に、役職の違いを越えて自由に意見を出せるようにするため、信頼性保証本部長の提案で今後は録画しないことが決まりました。提案に特段の反対は出ませんでした。
2月20日以降の本件対応のGOMには、録画も議事録も残りませんでした。
委員会は、当時の協議内容を示す客観的な記録がないため、会議資料と参加者へのインタビューから内容を認定せざるを得なかったと記しています。
会長へのリスク報告はメールで送られ、読むのは秘書が印刷して自宅へ届けた後だった
2月14日、信頼性保証本部長は、腎障害による入院症例が連続していることやGOMでの協議内容を記した1月度のマンスリーレポートを、会長へメールで送りました。
ただし、会長がマンスリーレポートを確認する通常の運用は、秘書が印刷したものを自宅へ届け、その紙を読むというものでした。
今回も会長が内容を確認したのは、自宅に印刷物が届いてから数日後の2月20日でした。
確認後、会長は秘書を通じて本件の詳細報告を求めています。
行政報告の判断材料に『レピュテーションリスク、事業影響』
2月26日以降のGOM資料では、行政報告の要否を判断する際の考慮要素として、医学・薬学的な観点から因果関係や重篤性を精査することに加え、別の要素も記載されていました。
資料には、行政報告の判断にあたり「レピュテーションリスク、事業影響を考慮し判断」と記載されていました。
委員会は、紅麹事業を維持するためなら食の安全性を軽視してよい、という議論があった事実は認めていません。その一方で、資料の記載からは、紅麹事業の維持を一定程度意識して問題に対応していたことがうかがわれると評価しています。
『この問題などは社外取締役にも共有すべき』と話した。それでも正式共有は3月20日までされなかった
3月4日のTEAM-F会議(社長、専務取締役、常勤監査役による月次会議)で、川西常勤監査役は、GOMで扱う経営上の重要案件や重大なリスクにつながり得る情報を社外取締役にも共有すべきだと提言しました。本件問題も、その具体例として挙げています。
これを受け、山根専務取締役は経営企画部長へリスク情報の共有を指示しました。その後の部長会議で、マンスリーリスク委員会が一部の重要案件を選んで社外取締役へ共有する方針に合意しましたが、本件問題の共有は具体的に検討されませんでした。
紅麹問題をリスク情報共有の具体例として挙げた後も、社外取締役への正式な共有は3月20日の夜まで行われませんでした。
委員会は、社外役員に適時に情報を共有していれば異なる視点から有益な意見を得られた可能性があるとして、共有のタイミングは適切だったとは言い難いとしています。
資料を初めて見るのが会議直前・会議中。議論は15〜20分、ほかに4〜14件の議題
本件はGOMで「協議事項」として扱われていました。この区分の資料は基本的に会議開始の直前に送られ、場合によっては会議中に画面へ投影されて初めて出席者が目にすることもありました。
ピークXが検出されるまで、本件問題に予定されていた議論時間は概ね15〜20分。さらに本件以外にも、審議事項と報告事項だけで少ないとき4件、多いとき14件の議題がありました。
重大な健康被害を扱う会議でも、資料を事前に読み込むのが難しく、予定された議論時間は概ね15〜20分でした。
委員会は、この運用では本件について集中的に十分な時間をかけて検討することが困難だったと評価しています。
社長直轄の『危機管理本部』は規程にあった。設置されたのは公表後だった
小林製薬の危機管理規程には、重大な製品事故や大規模な回収が予想される場合、社長を本部長とする危機管理本部を設置する仕組みがありました。危機管理本部の職務は通常業務より優先され、役割・機能を遂行するため、合理的かつ妥当と考える範囲で必要な全権限を持つとされていました。
しかし、公表前の対応は週1回程度のGOMを中心に進められ、危機管理本部の下で特別対応するという選択肢を具体的に検討するところまで至りませんでした。
委員会は、週1回のGOMより、危機管理本部を設置して社長が直接陣頭指揮をとる方が組織体の選択として良かったと指摘しました。
実際に危機管理本部に相当する「対策本部」が設置されたのは3月22日の公表後で、その後は連日にわたって対応方針が集中的に議論されています。
社内フローには逆に『因果関係不明を含む』と書かれていた
社内には、機能性表示食品について健康被害情報を受けてから措置を実施するまでの「連絡フローチャート」がありました。そのフローには、有害事象が自社製品に起因するかを判断する項目について、明確な但し書きがありました。
社内の連絡フローチャートには「当社製品に起因する有害事象であるか(因果関係不明を含む。)」と書かれていました。
フロー上の「措置の実施」には、消費者への情報提供や行政機関への速やかな報告も含まれていました。委員会は、これに従えば因果関係が明確でなくても行政報告が必要になるはずで、「因果関係が明確な場合に限る」という解釈との関係について合理的な説明を得られなかったとしています。

品質管理はほぼ1人任せ。乾燥機故障や青カビ、排気ダクト詰まりを述べる現場証言もあった
大阪工場の紅麹原料製造ラインでは、製造担当者が5〜6人いる一方、紅麹原料の品質管理を含む業務は品質管理グループの担当者にほぼ一任されていました。この状態は紀の川工場への移管後も同様で、人手不足が常態化していたと報告書は記しています。
委員会のインタビューでは、問題となった原料ロットの製造時に乾燥機が故障して一定時間乾燥されないままになったこと、培養タンクの蓋の内側に青カビが付着していたこと、移設時に排気ダクトの深い部分の目詰まりが見つかったことを述べる証言がありました。
委員会は原因との関係は不明と明記していますが、会社は問題把握後から3月22日の公表まで、製造担当者へ製造過程の問題を直接尋ねるなどの積極的な実態把握をしていませんでした。
ここで挙げた設備・衛生上の事象は、委員会が健康被害の原因として認定したものではありません。報告書に記録された関係者の説明として扱う必要があります。
委員会の結論――消費者の安全が最上位でなければ、再発防止策は『画餅に帰す』
報告書の最後で委員会は、遅くとも2月上旬以降、全社を挙げて対処すべき緊急事態として、製品を摂取する消費者の安全を最優先に考える姿勢がより強く求められたと総括しています。
原因や因果関係を究明すること自体は重要だとした上で、食品事故ではそれに焦点を当てすぎると、消費者への適正かつ迅速な情報提供が遅れる場合があるとも指摘しました。
「消費者の安全が最も高い価値」であることが日々の業務に表れなければ、どのような再発防止策も「画餅に帰す」と委員会は結んでいます。
報告書が指摘した背景
取締役会は、本件対応の事後的検証にあたり、会長、社長、専務取締役の社内取締役3名を特別利害関係があるとみなし、審議・決議から外しました。残る社外取締役4名が調査・検証を進め、その土台となる事実調査と内部統制・品質管理体制の精査を、弁護士3名の事実検証委員会に委嘱しています(印字7–8ページ)。
委員会の調査は4月26日から7月22日まで行われました。関係者の任意の協力に基づく調査で、強制処分を伴うものではなく、資料やインタビューの完全性を確かめる手段にも限界があるとして、委員会は調査結果の完全性を保証していません(印字8–9ページ)。
この記事の訂正
付箋08の危機管理本部を「CEO直轄」から社長を本部長とする仕組みへ訂正し、規程上の権限には合理的かつ妥当な範囲という限定があることを補いました(p.54–55)。録画・議事録が残っていない付箋03の会議内容は、委員会が会議資料と参加者へのインタビューから認定したものと明確にしました(p.26)。付箋06では、3月4日のTEAM-F会議での提言と、その後の部長会議で共有方針に合意した経緯を分けました(p.33)。
