何があった?

Carillionは英国の大手建設・施設管理会社で、道路や病院などの建設から公共サービスまで多くの契約を抱えていました。2018年1月、同社は強制清算に入りました。

英国下院のビジネス・エネルギー・産業戦略委員会と労働年金委員会は合同で、Carillionの経営・ガバナンス、年金制度への対応、監査や規制などのチェック機能を調査しました。2018年5月16日に公表された本報告書によると、清算時のCarillionには約70億ポンドの負債があり、現金は2,900万ポンドでした。

2017年3月に公表した2016年決算から4か月後、Carillionは契約価値を8.45億ポンド減額しました。9月には減額が10.45億ポンドへ拡大し、報告書はこれを過去7年間の利益合計と同額だったと記しています。

この記事では、倒産そのものの時系列よりも、倒産前の取締役会、契約評価、支払条件、年金交渉、監査、規制当局とのやり取りに何が残っていたのかを見ます。

この報告書で気になった12か所

105ページの報告書には、数字だけでは見えにくい具体的な判断が残っています。病院工事をめぐる2つの利益率、取引先への120日の支払条件、財務目標を達成していないCEOへのボーナス、増資を引き受けないとした証券会社への反応などです。

本記事の日本語は、英語で公表された原報告書をもとにした報告書の付箋による翻訳・要約であり、英国下院による公式日本語訳ではありません。ページ番号は原報告書に印字されたページです。

付箋 01

8.45億ポンドの減額を発表する1か月前、5,500万ポンドの配当を支払っていた

Carillionは2017年7月の利益警告で配当を停止しました。同年1〜2月には、配当を続けるかどうかが取締役会で議論されていました。

2017年1月の取締役会議事録では、当時の財務責任者Zafar Khanが、現金を温存して負債を減らすため配当を見送る案を出しています。一方、監査委員長Andrew Dougalや上級独立社外取締役Keith Cochraneは、配当を止めた場合に市場へ送るメッセージを懸念しました。

最終的に5,500万ポンドの配当が支払われたのは、8.45億ポンドの契約価値減額を発表する約1か月前でした。

確認された事実
付箋 02

年金側の年6,500万ポンド要求に、会社は3,340万ポンドを「take it or leave it」で提示した

2011年の年金評価をめぐり、年金受託者側は不足額を7.7億ポンドと計算し、14年間にわたり年6,500万ポンドを拠出するよう求めました。Carillion側は不足額を6.2億ポンドと見積もり、15年間で年3,340万ポンドを提案しました。

受託者側の独立助言会社Gazelle Corporate Financeは、Carillionには年間6,400万ポンドを超える拠出をしても利用可能なキャッシュフローへ大きな影響はないと見ていました。

報告書は、Carillionが年3,340万ポンドの案を「take it or leave it(受け入れるか、さもなければなし)」という提示として出したと記しています。

受託者会長Robin Ellisonは、当時の財務責任者Richard Adamが年金制度への資金拠出を「waste of money(お金の無駄)」と見ていた、と当時の認識を説明しています。これはEllisonの説明として記録されたものです。

確認された事実関係者の説明
付箋 03

取引先への標準支払は120日。45日で受け取るには、請求書を割り引いて銀行へ売る必要があった

Carillionは、取引先への迅速な支払いを促す英国政府のPrompt Payment Code(迅速支払コード)に署名していました。一方、同社はSupply Chain Finance Scheme(供給網の資金調達支援制度)の導入後、標準の支払条件を120日に変更しました。報告書の脚注は、公共部門の契約では引き続き30日以内の支払いが求められていたと補足しています。

取引先は請求書をCarillionの銀行へ割り引いて売れば45日後に資金を受け取れましたが、Carillionが銀行へ返済するのは120日の支払期限まで待つことができました。

倒産時、Carillionにはこの「早期」支払用に最大5億ポンドの信用枠があり、約3.5億ポンドを利用していました。

委員会は、この仕組みがCarillion自身の資金調達として機能し、脆弱なバランスシートを支えていたと評価しています。

確認された事実委員会の指摘
付箋 04

会長は自らの役割を「unquestioning optimist(疑うことのない楽観主義者)」と解釈していた、と委員会は指摘

Philip Greenは2014年からCarillionの会長を務め、清算までその職にありました。

報告書は、Greenが会長として会社の崩壊について「full and complete responsibility(全面的かつ完全な責任)」を認めた一方、必ずしも自分のculpability(自らに非があったこと)を認めたわけではない、と整理しています。

委員会は、Greenが会長としての自らの役割を「unquestioning optimist(疑うことのない楽観主義者)」であることだと解釈していた、と評価しました。

委員会は、会長には経営陣へ異議を唱え、取締役会として検証する役割があったという観点から、この姿勢を批判しています。

委員会の指摘関係者の説明
付箋 05

財務目標を1つも達成しなかったCEOに24.5万ポンド。ボーナス返還条項は8.45億ポンド減額でも使えなかった

2016年、CEOのRichard Howsonは基本給の37%にあたる24万5,000ポンドのボーナスを受け取りました。

報告書によると、この年Howsonは設定されていた財務パフォーマンス目標を1つも達成していませんでした。

Carillionのボーナス返還(clawback)条項は、決算の修正や重大な非違行為などに対象を絞っていました。2017年9月、報酬委員会は2016年分ボーナスの返還を求めることを検討しましたが、強制できず実現は非常に難しいと結論づけています。

委員会は、この条項が狭すぎたため、8.45億ポンドの減額につながった大きな問題が明らかになっても、過去のボーナスを「1ペニー」も取り戻せない仕組みだったと批判しました。

確認された事実委員会の指摘
付箋 06

病院工事は社内審査で12.7%の赤字、経営側の評価は4.9%の黒字だった

Carillionでは、工事現場の利益率を確認する方法として、経営側のcontract appraisal(契約評価)とは別にpeer review(社内の相互審査)がありました。

Deloitteが2017年に過去のpeer reviewを調べると、経営側の評価の方がpeer reviewより高い利益率を使っている事例が多く見つかりました。

Royal Liverpool University Hospitalの工事では、2016年11月のpeer reviewが12.7%の損失を示したのに対し、経営側の契約評価では4.9%の利益率が使われていました。

報告書の脚注は、11月時点の2つの評価による収益の差は5,390万ポンドで、2016年末の財務諸表に使われた利益率は4.44%、peer reviewの見積もりとの差は5,250万ポンド相当だったと補足しています。

病院工事への5,300万ポンドの引当額は、2017年7月7日に取締役会へ示された当初案に含まれていました。報告書の脚注によると、7月9日までに全体の引当額が6.95億ポンドから8.45億ポンドへ増えた際、病院工事分も1,500万ポンド増額されました。

確認された事実関係者の説明
付箋 07

顧客未承認の工事収益を2.94億ポンド計上。建設契約収益の10%以上だったが財務諸表には開示されなかった

Carillionには「traded not certified」と呼ばれる建設収益がありました。報告書は、追加請求や契約変更などについて、顧客がまだ承認しておらず、支払いを受けられるか不確実な収益だと説明しています。

2016年12月時点で、Carillionはこの顧客未承認の収益を2.94億ポンド認識しており、建設契約収益全体の10%以上を占めていました。

この金額は四半期ごとに監査委員会へ提出される資料には含まれていましたが、財務諸表では公開されていませんでした。

確認された事実
付箋 08

早期支払制度で引き出した4.72億ポンドを総借入債務に含めず、銀行借入を営業キャッシュフローとして表示できた

CarillionのEarly Payment Facility(EPF: 早期支払制度)について、Moody’sとStandard & Poor’sは、実質的な銀行への金融債務を「borrowing(借入)」ではなく「other creditors(その他債権者)」として表示していると指摘しました。Carillionの監査委員会資料では、実際の利用額は4.72億ポンドでした。

英国財務報告評議会(FRC: Financial Reporting Council)は、この評価に同意するかどうかを明言せず、制度の条件によって会計処理は変わると説明しています。

Carillionの分類では4.72億ポンドが総借入債務から外れ、キャッシュフロー計算書では銀行からの資金を営業活動による流入として表示できました。

委員会は、4.72億ポンドを借入債務として扱えば、融資契約上の重要な財務制限条項にもっと早く抵触した可能性が高いとしています。Moody’sの再計算では、2013〜2016年のcash conversion(利益を営業キャッシュへ変える比率)は、EPFを財務活動へ移すと100%超から7%になりました。

確認された事実委員会の指摘
付箋 09

KPMGは19年間監査し、監査報酬は2,900万ポンド。それでも一度も限定付き監査意見を出さなかった

KPMGは、Carillionが1999年に成立してから19年間、同社の監査を担当しました。

19年間の監査報酬は合計2,900万ポンドで、これとは別に税務やその他の保証業務の報酬もありました。KPMGは、長期間の監査によって独立性が損なわれたとは考えていないと委員会へ説明しています。

Carillionの財務諸表について、KPMGは19年間で一度もqualified audit opinion(限定付き監査意見)を出しませんでした。

委員会は、工事収益や買収時のgoodwill(のれん)の前提に警告サインがあったとして、KPMGの職業的懐疑心と経営陣への異議の出し方を厳しく批判しました。これは委員会による評価です。

確認された事実委員会の指摘
付箋 10

清算3日前、助言会社へ約640万ポンドを支払い、その翌日に政府へ最後の支援要請を送った

2018年1月12日、Carillionは法律事務所、会計事務所、金融助言会社などへ合計639万6,141ポンドを支払いました。

内訳にはEYへの250万8,000ポンド、Slaughter and Mayへの約119.6万ポンド、FTI Consultingへの約101.9万ポンドなどが含まれます。

この支払いの翌日、Carillionは英国政府へ2018年1〜4月の最大1.6億ポンドの資金保証を求める最後の要請を送り、その中には直ちに必要な1,000万ポンドも含まれていました。

政府は1月14日に支援しないと伝え、Carillionは1月15日に強制清算へ入りました。

確認された事実
付箋 11

Morgan Stanleyが増資を引き受けないと伝えると、取締役会は「not credible」と判断。その後、相談を減らした

2017年7月、Carillionは増資の可能性を検討していました。Morgan Stanleyは、経営陣が既存株主や新規投資家を納得させられる投資提案を作れていないとして、増資をunderwrite(引き受け保証)しないと取締役会へ伝えました。

Morgan Stanleyの担当者が会議を退出した後、取締役会は同社の見解を「not credible(信頼できない)」と判断しました。

その後HSBCが共同broker(証券会社)に加わりました。Morgan Stanleyは委員会へ、以後Carillionから助言を求められる頻度が減ったと説明しています。

確認された事実関係者の説明
付箋 12

年金規制当局は強制権限に7回言及したが、13年間で一度も使っていなかった

英国年金規制当局(TPR: The Pensions Regulator)には、英国2004年年金法(Pensions Act 2004)第231条に基づき、企業へ年金拠出スケジュールを課す権限がありました。

報告書によると、TPRはCarillionとの交渉で2013年6月から2014年3月までにこの権限へ7回言及しましたが、制度開始から13年間、どの年金制度にも一度も実際に行使していませんでした。

合同委員会は、Carillionがこうした言及を「empty threats(実行されない脅し)」と受け取ったと評価し、実際に権限を使わない姿勢を批判しています。

確認された事実委員会の指摘

報告書が指摘した背景

合同委員会は、Carillionの倒産を一つの契約や一度の判断だけで説明していません。取締役会による財務・事業上の判断に加え、工事収益の評価、配当と年金拠出の優先順位、取引先を使った資金調達、経営陣へのチェックが十分に機能しなかったことなどを重ねて論じています。

また、責任を会社内部だけに限定せず、外部監査、内部監査、投資家、年金規制当局、財務報告の監督など、それぞれのチェック機能についても検証しています。これらの評価には委員会独自の厳しい表現もありますが、本記事では確認された数字や記録と、委員会による評価を分けて紹介しています。

報告書は、政府がCarillionへ大型契約を発注した個別判断そのものはこの合同調査の対象外であり、それらは別の機関・委員会が扱うと明記しています。

この記事の訂正

  • 病院案件の4.9%は2016年11月の評価で、年末計上は4.44%、社内審査との差は5,250万ポンドだったと脚注を反映しました。5,300万ポンドの引当は7月7日の初期案で、7月9日までに1,500万ポンド増えたことを補いました。早期支払制度は負債から除外されたのではなく総借入債務に含まれなかったと訳を訂正し、政府支援要請は最大1.6億ポンドの保証と明確化しました。配当の議論は2017年1〜2月とし、公共部門契約には30日以内払いが求められていたとの留保を追加しました。証言の区分、請求・非違行為等の訳、支払制度と清算時系列の参照ページも補いました。

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この報告書のテーマ

この記事の編集について各付箋は原文のページに紐付けています。関係者の説明と、調査委員会が確認・評価した内容をできる限り分けて記載しています。記事は原則として、この報告書に記載された内容を対象にしています。