何があった?

2018年10月29日、Lion Air 610便のBoeing 737 MAX 8がインドネシア沖に墜落し、189人が死亡しました。2019年3月10日にはEthiopian Airlines 302便の737 MAX 8が墜落し、157人が死亡しました。2事故の後、737 MAXは世界各地で運航停止となりました。

米下院運輸・インフラ委員会は2019年3月に調査を開始しました。18か月の調査で5回の公聴会を開き、Boeingや米連邦航空局(FAA: Federal Aviation Administration)などから約60万ページの資料を取得し、関係者への聞き取りも実施しました。2020年9月16日に公表された委員会の多数党スタッフ(Majority Staff)による本文238ページ(PDF全245ページ)の最終報告書が、この記事の一次資料です。

報告書は事故原因だけではなく、737 MAXの設計・開発・認証、パイロット訓練、工場の生産圧力、BoeingとFAAの情報共有、Lion Air事故後の対応まで検証しています。

この報告書で気になった10か所

この報告書には、抽象的な「安全文化」や「監督不足」という言葉より、その状態を具体的に想像できる記録が残っています。追加訓練を求めた航空会社への「ジェダイ・マインド・トリック」、1機100万ドルの契約、180件のシミュレーター不具合、家族を乗せたくないという社内メールなどです。

以下の日本語は英語原文をもとにした報告書の付箋による翻訳・要約で、公式日本語訳ではありません。ページ番号は報告書に印字されたページ番号です。また、この報告書は米下院運輸・インフラ委員会のMajority Staffが作成したもので、本文中の評価はその報告書の評価として区別して記載します。

付箋 01

追加訓練を求めた航空会社を説得したと、主任技術パイロットは「ジェダイ・マインド・トリックした」「会社に大金を節約させている」と書いた

2017年12月、737の主任技術パイロットMark Forknerは、追加訓練を求めていた海外の航空会社を説得したことを同僚へのインスタントメッセージで報告しました。

Forknerは、その航空会社に追加訓練を求めるのは愚かだと思わせたという趣旨を書いたうえで、「ジェダイ・マインド・トリックした」(相手の心を操った、という趣旨)と表現しました。さらに、こうした電話のたびに自分は1,000ドルもらうべきだ、会社に非常に大きな金額を節約させている、という趣旨まで続けています。

本人は、航空会社に追加訓練を求めないよう説得したと書き、「ジェダイ・マインド・トリック」と表現しました。

報告書によれば、Boeingはこれらの通信が公表された後、その言葉遣いと内容を遺憾とし、FAA、議会、顧客、利用者に謝罪しました。

確認された事実会社の説明
付箋 02

NGとMAXを相互に運航できなければ、Southwest向けMAXは1機100万ドル。報告書はシミュレーター訓練で約4億ドルの負担になり得たと試算した

Boeingは2011年12月、737 MAXの米国ローンチカスタマーSouthwest Airlinesと契約を結びました。

契約では、Southwestのパイロットが従来型の737 NG(Next Generation)とMAXを、何らかの理由で「相互に」運航できない場合、Boeingが納入したMAX1機あたり100万ドルを支払うことになっていました。

FAAが10時間を超える訓練やシミュレーター訓練を要求した場合には、10時間を超える直接訓練費用もBoeingが負担する条件でした。

2019年10月時点の確定注文やオプションを踏まえ、報告書は、FAAがMAXパイロットにシミュレーター訓練を要求した場合、BoeingのSouthwest向け負担は約4億ドルになり得たと整理しています。

確認された事実委員会の指摘
付箋 03

FAAの正式書簡の前日、社内40人へ「Level B承認!!!!!」。同僚は「30年離れていてもMAXに乗れる? LOVE IT!」

2016年8月16日、FAAが737 NGからMAXへの差分訓練を、シミュレーターを使わないLevel Bとする暫定承認の正式書簡を出す前日、ForknerはBoeing社員・管理職40人へメールを送りました。

件名は、MAXの差分訓練がLevel Bで承認されたことを感嘆符5つ付きで知らせるものでした。Forknerは3年以上の努力が「finish line(ゴール)」に到達したと書いています。

それに対し同僚の一人は、正式なチェックは本当に一切ないのか、737 NGから30年間離れていてもMAXにそのまま乗れるのかと確認し、最後に「LOVE IT!」と書きました。Forknerは、特別な資格維持要件や正式チェックはない、それがLevel Bのポイントだという趣旨で返しました。

「30年間離れていてもMAXに乗れる? LOVE IT!」という社内メールに、主任技術パイロットは「それがLevel Bのポイント」と返しました。

確認された事実
付箋 04

MAXのシミュレーターに180件の不具合報告。社員同士で「家族を乗せる?」「乗せない」

2018年2月から春にかけて、MAXがFAAの型式認証を得た2017年3月の約1年後にも、Boeingの社内メールやメッセージにはシミュレーターの品質への懸念が残っていました。

2018年2月、英国GatwickのMAXシミュレーターについて、ある社員は180件のdiscrepancy report(不具合報告)があると書きました。そのやり取りの中で、社員の一人が「MAXシミュレーターで訓練を受けた乗員が操縦する機体に家族を乗せるか」という趣旨で問い、自分は乗せないと書き、同僚も「No」と返しています。

翌3月には別の社員が状況を「bloody joke(ひどい冗談)」と表現し、4月のメッセージには、シミュレーターが同僚を失速状態へ入れてしまう問題を6か月以上直そうとしているという記述もあります。

180件の不具合報告があるシミュレーターについて、社員同士の答えは「家族を乗せない」でした。

Boeingは後に、これらの通信が扱ったのはシミュレーター運用初期の資格認定作業であり、MAXシミュレーターは有効に機能していると説明しています。

確認された事実会社の説明
付箋 05

MCASを承認した主任プロジェクトエンジニアは、「単一センサー」「繰り返し作動」「10秒超でcatastrophic」を知らなかった

Michael Tealは737 MAXの副社長・主任プロジェクトエンジニア・副プログラムマネージャーを務め、操縦特性補強システム(MCAS: Maneuvering Characteristics Augmentation System)の設計を承認した人物でした。

しかし委員会スタッフの聞き取りで、Tealは、承認時点でMCASが各飛行で1つの迎角(AOA: Angle of Attack)センサーに依存していたこと、繰り返し作動できたこと、Boeingのテストパイロットが10秒を超えて対応した試験の状況を「catastrophic(壊滅的)」と評価していたことを知らなかったと確認しました。

委員会スタッフが、この3点を知らずにMCASを承認したという理解で正しいかと確認すると、Tealは「That is correct(そのとおりです)」と答えています。

MCASを承認した主任プロジェクトエンジニア自身が、その設計の重要な3点を知らなかったと認めました。

Tealは、自分は要求、構成、設計、試験、認証などを監督する立場だった一方、直属のエンジニアは一人もいなかったとも説明しています。

関係者の説明委員会の指摘
付箋 06

テストパイロットが対応に10秒超かかり「catastrophic」。その情報は6つの社内資料に残ったが、FAAへ伝えた記録が見つからなかった

2012年のBoeing社内シミュレーター試験では、意図しないMCAS作動への対応にテストパイロットが10秒を超えてかかり、その状況が「catastrophic(壊滅的)」と記録されました。報告書が引用するFAAの定義では、複数の搭乗者の死亡、または乗員の無能力化・致命傷を招き、通常は航空機の喪失を伴うと予想される故障条件を指します。

この情報は一度だけ書かれて消えたわけではありません。報告書によると、2015年から2018年に作られた少なくとも6つのMCAS coordination sheet(社内調整文書)に、10秒超の反応時間がcatastrophicになり得ることが記載されていました。

社内では6つの資料に繰り返し残った重要な試験データについて、委員会はFAAへ伝えた記録を確認できませんでした。

Boeingも委員会に対し、これらの社内調整文書をFAAへ共有した記録を見つけられなかったと説明しています。報告書は、Boeingが規則上共有義務はないと解釈していたことも記しています。

委員会の指摘確認された事実
付箋 07

標準装備の警報が大半のMAXで動かないと分かった。Boeingは2020年まで修正を延期することにし、Lion Air事故までに推定200機を納入した

AOA Disagree alert(迎角不一致警報)は、左右の迎角センサーの値が大きく食い違ったときに操縦士へ知らせる機能で、MAXでは標準機能として説明されていました。

ところが2017年8月、Boeingはこの警報がオプションのAOA Indicator(迎角表示機能)を購入した機体でしか動かず、大半のMAXでは機能していないことを把握しました。

Boeingは直ちに修正するのではなく、当時MAX-10の就航を予定していた2020年まで修正を延期しました。

報告書のタイムラインでは、2018年10月のLion Air事故までに、Boeingは機能しないAOA Disagree alertのまま推定200機を納入し、その事実を顧客やFAAへ知らせていなかったとされています。

Boeingは、この問題を当時の上級経営陣は把握していなかったと説明しています。報告書によれば、Lion Air事故後には修正を前倒しし、FAAは2019年2月25日に更新ソフトウェアを承認しました。運航停止前に、そのソフトウェアを搭載したMAXが1機納入されています。

委員会の指摘確認された事実
付箋 08

工場の上級管理者は「家族をBoeing機に乗せるのをためらう」と警告。5週間後の面談では「軍は営利組織ではない」と返されたと証言した

2018年6月、Renton工場の上級管理者だったEd Piersonは、737プログラムのゼネラルマネージャーScott Campbellへ、生産現場の疲労とスケジュール圧力についてメールしました。

Piersonは、安全上の危険が機体へ入り込む可能性があるとして、自分の「内部の警報ベル」がすべて鳴っており、初めて家族をBoeing機に乗せるのをためらっているという趣旨まで書き、生産ラインの一時停止を提案しました。

Campbellは翌朝、品質が最優先でスケジュールはその後だという趣旨で返信しました。しかし実際の面談が設定されたのは5週間以上後でした。

Piersonは「家族を乗せるのをためらう」と書いて生産停止を求めました。

その面談で、Piersonは軍ならこのような安全上の兆候があれば止めると説明したところ、Campbellから「軍は営利組織ではない」と返された、と委員会で証言しています。これはPiersonの証言であり、報告書が会話録音などで独立確認した発言ではありません。

関係者の説明確認された事実
付箋 09

Lion Air事故後、FAA自身の分析は「MCASを直さなければ死亡事故が15件超」と推計した。それでもMAXは運航を続けた

Lion Air事故後の2018年12月、FAAは737 MAXをそのまま運航した場合のリスクを輸送機のリスク評価手法(TARAM: Transport Airplane Risk Assessment Methodology)で分析しました。

その分析は、FAAの緊急耐空性改善命令を出した状態でも、MCASそのものを恒久修正しなければ、当時4,800機と想定したMAXの約30年の運航期間に死亡事故が15件を超え、2,900人超が死亡し得るという結果でした。

これは将来の事故を断定した予言ではなく、仮定を置いた統計的リスク分析です。分析は、100人中99人のパイロットが意図しないMCAS作動へ適切に対処すると仮定しており、報告書はこの仮定が楽観的だった可能性を指摘しています。FAAは別途、2019年7月までにはMCASが修正されると見込んでいました。

FAA自身のリスク分析が「15件超の死亡事故」を示した後も、MAXの運航は継続されました。

委員会は、FAA上層部の誰が当時この分析を把握していたのか特定できなかったとしています。FAAは委員長から求められた関連内部通信の提供にも応じなかった、と報告書は記しています。

委員会の指摘確認された事実
付箋 10

Lion Air事故後のFAAドラフトは「非適合なし」。Ethiopian事故翌日に開かれて印刷されたが、最終版にはならなかった

FAAのBoeing Aviation Safety Oversight Officeは、Lion Air事故後の2019年1月、MCASの認証を振り返る内部レビューを始めました。

2019年2月8日付のドラフトは、Boeingに「noncompliance(非適合)は見つからなかった」とし、いくつか改善の余地はあるものの是正措置は必要ない、という結論でした。

そのドラフトは最終版になりませんでした。FAAの説明では、管理職によるレビューの途中でEthiopian Airlines 302便の事故が起き、その事態によってレビューが先に進まなくなったためです。

委員会が確認したメタデータでは、ドラフトはEthiopian事故翌日の2019年3月11日にFAA職員によって開かれ、印刷されていました。

委員会は文書の提供を繰り返し求めましたが、FAAはドラフトであることを理由にコピー提供を拒み、後に委員会スタッフへリモートの非公開閲覧を認めました。

委員会の指摘確認された事実

報告書が指摘した背景

最終報告書は、737 MAXの問題を一つの設計ミスだけで説明していません。Boeing側については、スケジュールとコストへの圧力、パイロット訓練を最小限にするという事業上の目標、MCASに関する重要情報の共有不足などを挙げています。FAA側についても、Boeingへ認証業務を委任する仕組みや監督体制、事故後のリスク評価と意思決定を問題として取り上げています。

一方で、この報告書は米下院運輸・インフラ委員会のMajority Staffが作成した議会調査報告書です。この記事では、その評価を「報告書の評価」として扱い、BoeingやFAAの説明、個人の証言、社内文書に残る事実を可能な限り分けて紹介しました。

この記事の訂正

  • Southwestへの1機100万ドルの支払条件はNGとMAXを相互に操縦できない場合で、訓練費用の補償とは別の条件と明確にしました。AOA Disagree警報の修正は2020年まで延期する決定であり、実際に約3年未修正だったという意味ではありません。Lion Air事故後の前倒しと2019年2月のソフトウェア承認を補いました。担当者の説得・シミュレーターについての発言を本人の記録として示し、TARAM推計の操縦士対応の仮定と当時の修正見込み、MCAS資料の共有についての会社説明、会社応答等の参照ページを補いました。

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この報告書のテーマ

この記事の編集について各付箋は原文のページに紐付けています。関係者の説明と、調査委員会が確認・評価した内容をできる限り分けて記載しています。記事は原則として、この報告書に記載された内容を対象にしています。