何があった?
オリンパスでは、1990年代までに膨らんだ金融資産の含み損について、会社の連結決算から切り離して先送りし、その後、国内3社の株式取得や英国ジャイラス(Gyrus)社買収に伴う財務助言者(FA: Financial Advisor)の報酬などを利用して損失を解消する仕組みが進められていました。
2011年、社長・最高経営責任者(CEO)となったマイケル・ウッドフォードが過去の企業買収に疑問を持ち、外部専門家へ調査を依頼しました。その後、オリンパスは社外の専門家による第三者委員会を設置。2011年12月6日に公表された調査報告書は、前付けを含むPDF全体で200ページ、本文は印字185ページです。損失分離・解消の経緯だけでなく、取締役会、監査役会、内部通報制度、会計監査人の交代、ウッドフォード解職まで検証しています。
背景情報:オリンパス(Wikipedia)
この報告書で気になった12か所
報告書には、損失を隠すための資金移動だけでなく、買収先の事業内容、取締役が会議で抱いた疑問、社外への通報窓口をめぐるやり取りなど、具体的な場面が残されています。買収と監督の現場で何が起きていたのか、12か所を原文ページ付きで紹介します。ページ番号は日本語原本の本文に印字された番号です。
選ばれた3社は「注射器の再資源化」「シイタケ菌糸体の健康食品」「電子レンジ調理容器」だった
オリンパスが出資した事業投資ファンドは、2003年から2005年にかけて、アルティス、ヒューマラボ、NEWS CHEFの3社を発掘しました。
アルティスは、使用済み注射器などのプラスチック系感染性医療廃棄物を処理し、重油などへ再資源化する事業を手掛けていました。
ヒューマラボは、シイタケ菌糸体培養抽出物を利用した加工食品などの販売会社でした。
NEWS CHEFは、電子レンジ用調理容器の開発・販売会社でした。報告書によると、油を使わない、または少なくできる電子レンジ調理が健康に資するという説明もされていました。
3社の位置づけは、単なる新規事業への投資から、損失を処理する取引の対象へと変わっていきました。第三者委員会によると、山田や森らは3社の成長を見込めると説明しながら、株式の売却益を損失の穴埋めに回す仕組みを進めました。
関連ファンドが1株5万〜20万円程度で引き受けた3社の株式を、オリンパスが1株400万〜2,000万円超という高値で買う仕組みが計画されていました。
「前向きに検討する」の1週間後、承認したことになっている文書が作られていた
2006年3月9日の事業投資委員会では、国内3社への投資について「新事業の創成と事業の成功を目的として前向きに検討する」と判断されました。
ところが、委員長の山田は、3月16日付で事業投資審査委員長名の「審査結果の報告」という書面を作り、3社へ合計約108億円を投資することが承認された旨が記載されていました。
第三者委員会は、他の委員が3社の株式取得を承認・賛成したことを示す資料を確認できませんでした。
「2社はオリンパスと全く関係がない」「価格がおかしい」と言われたが、最後は全員承認した
2008年2月22日の取締役会では、国内3社の株式を買い増して子会社化する議案が審議されました。
議事録には質疑の形跡がありませんが、委員会が聞いた出席者の説明には、慎重な意見が残っています。ある取締役はアルティスについては面白そうだと思った一方、残り2社はオリンパスと「全く関係がない」と感じていました。別の取締役は「価格がおかしい」と指摘。さらに「かなり急いでいる話」と受け止めた取締役もいました。
それでも、森への信頼から「そこまでいうなら仕方がない」と考えたという説明も残っています。
慎重な意見は出ましたが、最後まで反対を唱える者はおらず、議長の菊川が確認して承認となりました。
「これでよろしいですね」に明確な反対がなければ、全員承認としていた
1999年の特別損失計上を審議した取締役会について、第三者委員会は出席者から当時の決議の取り方を聞いています。
その説明では、まず担当取締役や担当部長から議案の説明があり、質疑応答を行います。その後、議長が確認する方式でした。
議長から「これでよろしいですね」というような確認があり、明確な反対意見がなければ、全ての取締役が承認したことになっていました。
委員会は別の箇所で、取締役会の最終決議では、原則として挙手など賛否が明確になる方法を採用していなかったと指摘しています。
株式オプションを増やすと「怪しまれる」と考え、別にワラントを付けた
ジャイラス買収のFA報酬を損失の穴埋めに利用する仕組みを検討する中で、山田と森は、Axesへより多くの資金を支払えるようにしたいと考えました。
株式オプションを多く付与することでも、経済的な効果は同じでした。
しかし第三者委員会は、株式オプションを多く与えることを露骨に契約へ定めると「怪しまれる可能性」があると考え、別途ワラント(新株予約権の割当てを受ける権利)を付ける条項を入れたと認定しています。
5億3,000万〜5億9,000万ドルの評価付き買取要求を、リーマンショックで説明した
2008年11月25日付の書簡で、Axamは、株式引受契約自体を第三者へ譲渡することに同意するか、ジャイラスの配当優先株を買い取るよう求めました。添付された価値評価は約5億3,000万〜5億9,000万ドルで、第三者による評価書の作成者は不明でした。
第三者委員会によると、この買取請求は、森がAxamとあらかじめ合意して実行させたものでした。
森は社内には、リーマンショックの影響でAxamのほかの資産に損失が出て、現金を必要としているらしい、と説明しました。
第三者委員会は、この説明を虚偽だったと認定しています。
社外への内部通報窓口は何度も提案されたが、山田が強く反対した
オリンパスでは2005年からコンプライアンス・ヘルプラインが導入されていましたが、通報先は社内のコンプライアンス室に限定されていました。
制度設計の担当者からは、社外役員、監査役、法律事務所など、より独立性の高い機関へ直結する通報窓口を設ける案が出ていました。監査役会も複数回提案していました。
しかし第三者委員会によると、山田が強く反対したため、ヘルプラインは外部への窓口を持たず、組織内部だけで閉鎖される形になりました。
制度上は匿名通報を受け付けていた一方、要調査案件では調査開始時に実名を求めていました。匿名で寄せられた架空伝票処理の通報で、実名を求められた結果、通報自体が取り下げられた案件もあったとされています。
第三者委員会の記述・日本語原本
社内で本件が明らかになって以降、社内におけるヘルプラインの利用件数が激減したとされており、内部通報制度本来の機能(不正に関する社内自浄機能)は著しく損なわれていたと思われる。社外監査役の1人は社長の高校同級生、もう1人は部品納入会社の出身だった
当時のオリンパスの監査役会には、2人の社外監査役がいました。
第三者委員会は、常勤監査役・社外監査役とも、就任当時の代表取締役の指名・推薦を受けて就任していたことを指摘しています。
さらに、社外監査役の1人は社長の高校の同級生で、もう1人はオリンパスへ部品を納入している日本電産コパルの出身者でした。
委員会は、代表取締役に対する精神的な独立性が担保されていたとは、外見的にも実質的にも言い難いと評価しています。
買収への疑問を調べた外部委員会。原資料は独自検証せず、ヒアリングは計10時間
国内3社の株式取得やジャイラス買収のFA報酬について監査法人から問題を指摘された後、監査役会は外部専門家3人からなる「2009年委員会」に調査を依頼しました。
2009年委員会は5月11日から17日まで開示資料を検討しました。
ヒアリングは、5月14日午前9時〜午後1時と、5月17日午後7時〜翌18日午前1時の2回、計10時間でした。
2009年委員会自身も、提示された事実や資料について独自の事実確認や原資料の確認をしておらず、調査期間・資料・ヒアリング対象が限られていたため、十分な時間をかければ発見できた事項を見つけられていない可能性があると断っていました。
外部委員会は調査の限界を明記。監査役会はその注意書きなしで「不正は認められない」と結論
2009年、監査役会は国内3社の買収価格やジャイラス買収の報酬について、外部の専門家3人に調査を頼みました。
外部委員会は、会社から渡された資料の内容を独自に確かめておらず、調査期間やヒアリングの対象も限られていると断ったうえで、「違法・不正があった」と判断できる材料は見つからなかったと報告しました。
ところが、監査役会が監査法人へ示した結論は「不正・違法行為は認められず、取締役の善管注意義務違反及び手続的瑕疵は認められない」。外部委員会が付けた調査上の注意書きは、一切引き継がれていませんでした。
2011年の第三者委員会は、この経緯が2009年5月25日の取締役会にも報告されなかったと記しています。
正式な引継ぎで、解任理由の話は会計上の問題が2つあるとの返答で終わった
2009年、オリンパスの会計監査人は、あずさ監査法人から新日本監査法人へ交代しました。
6月11日の正式な引継ぎで、冒頭、あずさ側が新日本側へ「解任理由について聞いてますか」と質問しました。
新日本側は、会計上の問題が2つあったと聞いている、と答えました。
第三者委員会によると、あずさ監査法人の事実上の解任について両監査法人が行ったやり取りは、これだけでした。
5月14日の非公式な接触では、会計処理をめぐる見解対立や、説明の際に菊川が激怒したという話まで伝えられていましたが、正式な引継ぎではそれ以上この話題に触れず終了しています。
ウッドフォードが菊川と森に退任を要求。3日後、本人を除く出席取締役全員がウッドフォード解職に賛成
ウッドフォードは2011年7月31日、雑誌FACTAの翻訳記事を入手し、国内3社の取得額やジャイラス買収のFA報酬に疑問を持ちました。菊川や森らへ説明を求めましたが、期待する回答は得られませんでした。
さらに、菊川が周囲に、記事についてウッドフォードへ知らせないよう指示していたことを知ったと報告書は記しています。ウッドフォードは10月3日に法律事務所PwC Legalへ調査を依頼し、10月11日付の中間報告を受けました。
同日、ウッドフォードは菊川に対し、菊川と森の退任を求める書簡を送りました。
PwC Legalの中間報告・日本語原本に掲載
我々は不適切な行為が行われたと確信することはできないが、支払われた総報酬金額が今までになされたいくつかの非慣例的な意思決定を考慮すると、現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできない。3日後の10月14日、臨時取締役会で、ウッドフォード本人は動議に利害関係があるため決議権を与えられず、他の出席取締役全員が賛成し、ウッドフォードは代表取締役・社長執行役員・CEOから解職されました。
報告書が指摘した背景
第三者委員会は、財務部門が金融資産の取引を実行し、その結果の検証・評価まで行っていたため、他部門による牽制・監督が働かなかったと分析しています。取締役会・監査役会のチェック機能や、監査法人交代時の引継ぎも不十分だったと評価しました(本文179〜181ページ)。
この記事の訂正
総ページ数を本文の印字185ページから日本語PDF全体の200ページへ訂正しました。付箋02には他の委員の承認・賛成を示す資料についてのp.139を追加しました。付箋04はp.138の出席者の説明と、p.125の委員会認定を分けました。付箋06の譲渡対象は配当優先株そのものではなく株式引受契約であり、5億3,000万〜5億9,000万ドルは添付評価書の評価額として訂正しました(p.65)。ほかの参照範囲も補い、正式な監査法人引継ぎでの解任理由の話と、事前の非公式な接触を区別しました。
