何があった?
DeNAは、WELQ、MERY、iemoなど10のキュレーションサイトを運営していました。2016年11月、医療・健康情報を扱うWELQについて、専門家の監修がない記事や根拠が不明確な内容が外部から問題視され、同社はWELQの記事を全て非公開にしました。その後、他サイトでも記事作成プロセスや文章・画像の利用方法などが問題となり、12月7日までに10サイト全ての記事が非公開となりました。
DeNAは第三者委員会を設置し、キュレーション事業の事実関係、法令上・倫理上の問題、原因、再発防止策を調査しました。委員会が2017年3月11日に提出した報告書は、記事そのものだけでなく、MERYやWELQで記事を大量に作る仕組みがどのように設計・運用されていたかを詳細に記録しています。
この報告書で気になった11か所
ニュースで大きく扱われた医療情報の問題だけでなく、記事制作の現場に残っていた具体的な仕組みを選びました。MERYの画像確認、WELQでの外注化、社内で「WELQ式手法」と呼ばれた方法、ライター向けマニュアル、実際の業務チャットなどです。
ページ番号は、306ページある開示PDFのうち、調査報告書本文に印字されたページ番号です。
MERYは「無給のボランティアのような立場」の女子大生による記事執筆から始まった
委員会によると、MERYでは、サービス開始当初から女子大学生らが記事執筆の中心を担っていました。
報告書によると、開始当初は創業者らの知人だった女子大学生ら10〜20人程度が、報酬を受けないボランティアに近い立場で記事を書いていました。
サービス開始から約半年後の2013年秋頃に給与を支給するようになり、名称も「インターン」へ変更されました。
その後、インターンは増え、本問題に至る直前には約140人が在籍していました。
画像を制限すると記事の幅が狭まる。MERYがホワイトリストを使わなかった理由の一つだった
報告書によると、DeNAによる買収後、MERYでは著作権や肖像権を侵害する可能性のある画像を使わないルールを設け、ブラックリスト方式を採っていました。
一方、インターンやアルバイトライターの記事について、利用可能な画像を提携サイトなどに限定するホワイトリスト方式が導入されたのは2016年8月末のクレーム後でした。
それ以前にホワイトリスト方式を採らなかった理由として、利用できる画像を限定すると記事の幅が狭くなることと、インターンらなら問題のある画像を使わないだろうという信頼が挙げられています。
MERYの画像確認は「最初の数枚」。問題がなければ残りは確認しなかった
委員会によると、インターンやアルバイトライターが作ったMERYの記事では、担当者が画像の引用元サイトを確認し、利用して問題がないかを見ていました。
ただ、MERYの記事は1本あたりの画像枚数が多いという事情がありました。
実際の確認は、記事の最初の数枚を見て問題がなければ、それ以降の画像は確認しないという方法でした。
なお、遅くとも2016年7月以降は、週1回、エンジニアがシステムを通じてその週の記事を確認し、ブラックリスト登録サイトの画像が見つかれば記事ごと削除する運用も行われていました。
記事生産の仕組みは、社内で「WELQ式手法」と呼ばれることがあった
報告書によると、WELQでは、社内編集担当者の関与をできるだけ減らし、記事構成、執筆、内容確認などの手順を細かくマニュアル化しました。外部ライターの管理も基本的に外部ディレクターへ任せ、社内担当者が関与するのは対応が難しい例外的な場合に限定していました。
報告書によると、このような方法はキュレーション企画統括部内で、ときに「WELQ式手法」と呼ばれていました。
委員会は、外注やマニュアル化自体がWELQ独自だったわけではないとも明記しています。その上で、WELQはこの体制を最も徹底的かつシステマティックに構築・運用したと整理しています。
正確性には医師監修が必要と認識。それでも大量生産では監修なしもやむを得ないと考えるようになった
WELQは当初、医師監修が不可欠とは考えていなかったダイエットや筋トレなどを中心に記事を作っていました。
しかし、記事数やSEO経由の利用者数の目標が引き上げられると、当初は医師監修を付けるべきだとして見送っていた医療関連のテーマにも範囲を広げました。
委員会は、担当者らが正確性を担保するには医師監修が必要だと認識しながら、コストと大量生産を理由に、監修を経ず正確性に疑義のある記事が作られてもやむを得ないと考えるようになったと認定しています。
2016年9月頃から医師監修を付ける検討が本格化し、複数の会社や医師と交渉していましたが、その導入前に本問題へ至りました。
記事構成案には「ライバルサイトURL」欄。外部ディレクターのチェック項目にも入っていた
WELQは記事構成案の作成も外部化し、2016年1月頃には外部構成ライターが案を作り、外部構成ディレクターが確認する体制へ完全に移行しました。
ライターに渡す記事構成案には「ライバルサイトURL」という欄があり、外部ディレクター向けの確認項目にも、そのURLが記入されているかを確かめる項目がありました。
WELQの編集担当者は、これは記事に盛り込む情報の網羅性を考えるための参考であり、そこから文章を転用したりコピーしたりすることを勧める意図はなかったと説明しています。
月1,500本を超えて確認を外注。最後には社内の抜き取り確認もなくなった
委員会によると、2015年12月頃、WELQの月間公開記事数は1,500本を超え、社内の編集担当者だけで全記事を十分に確認することが極めて難しくなりました。
そこで約20人弱の外部編集ディレクターを採用し、ライターが書いた全記事の内容確認を任せるようになりました。2016年1月頃からは、外部編集ディレクターが社内編集者の確認を経ずに記事を公開しています。
当初は公開後に社内編集者が一部を無作為に確認していましたが、遅くとも2016年9月頃には、その抜き取り確認も一切行われなくなりました。
複数サイトの情報を組み合わせれば「独自性の高い記事」になるとマニュアルで説明していた
WELQの執筆マニュアルには、参考サイトと似た本文にならないための書き方が具体例付きで掲載されていました。
その一つが、一つの見出しを書く際に複数のサイトを参考にして、そこから得た情報や意見を組み合わせる方法でした。
マニュアルは、そうすればどのサイトを参考にしたかがすぐ分かる状態ではなくなり、「独自性の高い記事」になるという趣旨で説明していました。
同時に、事実を参考にするのはよいが、表現はそのまま使わず、自分の言葉や説明順序で書くよう求めていました。
文章を単語単位で「事実」と「表現」に分け、表現だけを言い換える実例が載っていた
同じマニュアルは、参考記事の文章を分析する方法として、文章中の語を「事実」と「表現」に分ける考え方を示していました。
例えば、内容を伝えるため不可欠な専門用語などは「事実」として残し、別の言い方ができる部分を「表現」として言い換える、という方法です。
報告書には、元の文章を単語単位で分類し、必要な語を残しながら表現や文章の順序を変える実例まで収録されています。
医療・専門性の高い記事についても、必要な語を消さずに説明順序などを変える方法が示されていました。
実際の業務チャットでは「Google2ページ目」のサイトも参考にするよう指示していた
第三者委員会は、マニュアルだけでなく、WELQの編集担当者と外部者の実際のチャットも確認しています。
そこには、参考サイトとの表現が同じだと判断した編集担当者が、さらに言い換えるよう外部者へ求めたやり取りがありました。
その際、Google検索の「2ページ目」に出てくるサイトなども参考にして、独自の表現へ直すよう指示していました。
一方、マニュアル作成者らは、外部者へ参考の仕方を分かりやすく説明する意図であり、他サイトの文章の無断利用やコピーを勧める意図はなかったと説明しています。報告書の脚注202によると、委員会の意見募集では、WELQで執筆経験があると回答した外部者18人中8人がマニュアルをコピー推奨と感じたと答え、4人はそう感じなかったと答えています。残る6人はこの点について回答していません。
「肩が痛い」で検索すると予測候補に「霊」。記事には「幽霊が原因のことも?」が入った
報告書によると、WELQでは、検索キーワードやGoogleの予測キーワードを記事テーマや構成へ反映していました。
ある記事の構成担当者が「肩が痛い」と検索したところ、予測キーワードの一つに「霊」が表示されました。
そこで肩こりの原因を扱う記事の小見出しに「幽霊が原因のことも?」という項目を入れ、その構成案に従って外部ライターが記事を書きました。
委員会は、霊に関する部分は記事全体のごく一部だったとした上で、SEOを意識するあまり記事内容の合理性がおろそかになり、外部編集ディレクターも構成案どおりに書かれていることを理由に内容を深く検証しなかったと指摘しています。
報告書が指摘した背景
第三者委員会は、DeNAのキュレーション事業で、記事数やSEO経由の利用者数などの数値目標が強く重視され、事業の急拡大に対して管理・チェックの仕組みが追いつかなかったと整理しています。
WELQでは、社内編集者の工数を減らし、記事作成の各工程を外部化・マニュアル化することで、短期間に記事数と利用者数を伸ばしました。一方、その仕組みの中では、専門性や正確性、文章・画像の利用方法をめぐるリスクを十分に管理できませんでした。
委員会は、外注やマニュアル化そのものを問題だとはしていません。問題の中心は、それらを使って事業を急拡大する一方、リスクを把握し、独立した立場からチェックして修正を求める体制とプロセスが十分に機能しなかったことだとしています。
この記事の訂正
本文の最終印字ページを277から276へ、PDF対応を印字+29から+30へ訂正し、全11付箋の印字参照を再照合しました。報告書公表日は3月11日の受領日ではなく3月13日です。委員会が整理した運用実態と、マニュアル・チャットに記録された内容を区分しました。付箋10にはWELQでの執筆経験がある外部回答者の受け止めに関する脚注202を補い、付箋11には委員会評価のp.246–247と、霊を扱う部分は記事全体のごく一部だったという留保を補いました。
