何があった?
Danske Bankのエストニア支店には、ロシアなどエストニア国外の顧客を中心とする「Non-Resident Portfolio(非居住者ポートフォリオ)」がありました。2007年から2015年までの対象顧客は約1万、報告書が調査対象を広げた顧客は約1万5,000にのぼります。2007〜2015年の資金フローは約2,000億ユーロでした。
ただし報告書は、2,000億ユーロ全体が疑わしい取引だったとはしていません。取引を一件ずつ調べる方法は採っておらず、疑わしい資金の正確な割合は算定できないと明記しています。
2013年末の内部通報と2014年初めの内部監査を受け、グループはエストニア支店のマネーロンダリング対策(AML: Anti-Money Laundering)の手続が著しく不十分だったことを認識しました。調査を監督・指揮した法律事務所Bruun & Hjejleによる、2018年9月19日公表のこの報告書は、顧客の取引だけでなく、警告や内部報告がどのように扱われたのかを時系列で検証しています。
この報告書で気になった10か所
巨額の資金フローそのものより、報告書に残った具体的な判断や文書を選びました。ロシア中央銀行からの警告、IT統合をやめた理由、利益率をめぐる社内メモ、内部通報への対応、米ドル(USD)決済銀行からの指摘などです。
一次資料は英語です。この記事の日本語は報告書の付箋による翻訳・要約であり、Danske BankやBruun & Hjejleによる公式日本語訳ではありません。ページ番号は報告書本文の印字ページです。
ロシア中央銀行から「毎月数十億ルーブル」の疑わしい取引を知らされていた
2007年6月、ロシア中央銀行はデンマーク金融監督当局を通じ、Sampo Bankのエストニアの非居住者顧客について懸念を伝えました。
内容は、顧客が出所の疑わしい金融取引へ継続的に関与しており、その規模は毎月数十億ルーブルに達するというものでした。税・関税の支払い回避や資本流出に合法的な形を与えること、マネーロンダリングを含む犯罪行為の可能性にも言及していました。
報告書は、この警告と当時のエストニア当局の厳しい検査報告を、Danske Bankが非居住者ポートフォリオの疑わしい活動を把握できた「最初の本格的な機会」と位置づけています。
この情報はグループの経営執行委員会(Executive Board)と取締役会(Board of Directors)でも議題になりました。
グループ共通ITへの移行は「高すぎる、リソースを使いすぎる」として中止された
Danske Bankは、買収したバルト地域の銀行業務をグループ共通のITプラットフォームへ移す計画を持っていました。目的には、事業情報へのアクセスを確保し、オペレーショナルリスクを減らすことも含まれていました。
しかし2008年8月、この移行計画は中止されました。
理由は、移行には費用がかかりすぎ、キャパシティも使いすぎると判断されたためでした。
その結果、エストニア支店はグループ側で開発された顧客システムや取引・リスク監視を使わず、グループから支店の業務を把握しにくい状態が続きました。
AMLを理由とするUSD決済銀行への終了通知は8月1日発効。同日付の内部監査は顧客確認統制を「reasonable(妥当)」と評価した
2013年6月、エストニア支店のUSD決済を担っていたコルレス銀行の一つが、AMLを理由に取引関係を終了する意向をDanske Bankへ伝えました。最終的に同銀行との合意の下、エストニア支店側から、8月1日発効で通常の3か月の予告期間を伴う終了通知が出されました。
一方、同年8月1日付のグループ内部監査部門(Group Internal Audit)の監査報告は、エストニア支店の非居住者向け顧客確認(KYC: Know Your Customer)の統制を4段階中2番目の評価としていました。
KYCの手続と関連する内部統制は「reasonable(妥当)」、KYC文書は「generally sufficient(概ね十分)」と評価されていました。
監査報告は改善が必要な複数の問題も挙げていますが、USD決済銀行がAMLを理由に関係終了を求めた時期と、比較的肯定的な内部監査評価が近接しています。
社内自身が「通常を超える利益率は警告サイン」と書いていた
コルレス銀行との関係終了を受け、2013年に非居住者ポートフォリオの事業レビューが始まりました。
その過程で法人銀行部門(Business Banking)は、通常を上回る利益率そのものが警告サインになり得ると指摘しました。さらに、一部顧客が価格に敏感でない理由についても、良いサービス以外の要因ではないかという懸念が示されています。
高い収益性は成功の証拠としてだけでなく、社内資料の中で「警告サイン」として認識されていました。
グループコンプライアンス・マネーロンダリング対策部門(Group Compliance & AML)からは、エストニアの非居住者顧客の取引量が想定より大きいという指摘も出ています。
「マネーロンダリングに使われる可能性」という一文は、最終版メモから削られていた
2013年10月、エストニア支店では、ロシア国債を利用して仲介業者の最終顧客が海外へ送金する仕組みについて、支店の経営執行委員会(Executive Committee)向けのメモが回覧されました。
メモは、この仕組みを通常の国際送金より速く、安く、確実な方法として説明し、高収益であるとも記していました。一方で、仲介業者の最終顧客を完全には把握していないことや、ロシアからの資本逃避を助けているように見える評判リスクも挙げています。
草稿には「この仕組みがマネーロンダリングに使われる可能性がある」という趣旨の一文がありましたが、支店経営陣の一人の意向で最終版から外されました。
内部通報メールの件名は「knowingly dealing with criminals in Estonia Branch(エストニア支店で犯罪者と知りながら取引している)」だった
2013年12月27日、エストニア支店の内部通報者から、経営執行委員会メンバーやGroup Compliance & AML、Group Internal Auditなどへメールが送られました。
メールの件名は「Whistleblowing disclosure – knowingly dealing with criminals in Estonia Branch(エストニア支店で犯罪者と知りながら取引している)」でした。
本文では、特定顧客が虚偽の財務書類を提出していたことや、その後も銀行が顧客との取引を続けたことなどが主張されています。これら個別の記述は内部通報者の主張であり、本記事では報告書が確認した事実と区別して扱います。
口座担当者の顧客数が多すぎて監視は「事実上不可能」。実質的所有者を把握しない理由も説明されていた
2014年1月のGroup Internal Audit(グループ内部監査部門)の監査書簡は、一部の内部通報内容を確認し、継続的な顧客監視が口座担当者の手作業に依存していたことを問題にしました。
担当者は非常に多くの顧客を抱えており、監査書簡は、監視を実効的かつ効率的に行うことは事実上不可能だと評価しています。
さらに2月の現地監査では、実際の資金源や実質的所有者を特定できない状況が報告されました。
支店従業員は監査人3人の前で、実質的所有者を特定しない理由について、ロシア当局から情報照会があった場合に顧客に問題が生じる可能性があるからだという趣旨を説明しました。
外部コンサルへ不正疑惑の調査を依頼したが、経営執行委員会の2人が覆した
内部通報への対応過程で、グループ法務部門(Group Legal)は外部コンサルに対し、内部通報と上級職員を含む不規則な行為に関する情報を基に、不正疑惑を調べるよう依頼しました。
報告書によると、この方針は経営執行委員会の2人によって覆されました。
その後、Group LegalはGroup Compliance & AMLへ内部通報案件を終結させる作業を依頼しました。その際に渡された「全リスト」では、一部の通報内容が広い表現へまとめられ、内部共謀などの主張は完全に抜けていました。
Group Compliance & AMLがまとめた後の一覧では5件の主張が確認済みと扱われていました。報告書作成者は、内部通報の主張について追加調査が行われたことを示す情報を発見できなかったとしています。
戦略資料ではAML要件を「脅威」と扱い、非居住者事業はエストニアの税引前利益の90%を占めていた
2014年のバルト事業戦略資料は、今後の課題を整理する中で、AML要件を全体として事業上の「threat(脅威)」と位置づけていました。
別のスライドは、非居住者事業への姿勢を大きく変えればバルト事業の純利益が減ると説明しています。
同じ資料では、Non-Resident Portfolio(非居住者ポートフォリオ)がエストニアの税引前利益の90%を生み出していると記されていました。
資料は同時に、非居住者事業を段階的に縮小し、北欧企業を中心とする法人銀行へ転換する方針も提案しています。
USD決済銀行が10顧客を確認。「okay」だったのは1顧客だけだった
2015年、エストニア支店のUSD決済を担う別のコルレス銀行が、Danske Bankに対し、一部の支払いに懸念があることを伝えました。
Danske BankはUSD決済額の大きい30顧客のリストを共有し、コルレス銀行はそのうち10顧客を確認しました。
10顧客のうち4顧客に直接懸念があり、5顧客は懸念のある相手と取引しており、「okay」とされたのは1顧客だけでした。
報告書によると、取締役会(Board of Directors)には、2015年5月の別のコルレス銀行からの質問も、この銀行が7月にNon-Resident Portfolio(非居住者ポートフォリオ)のUSD決済を拒否し、取引関係終了につながったことも報告されていませんでした。
報告書が指摘した背景
報告書は、問題が長期化した背景として、エストニア支店がグループとは別のIT環境を使い続けたこと、グループ側から支店の顧客や取引を把握しにくかったこと、AML手続への過信、内部監査などの統制機能から安心材料となる報告が続いたことを挙げています。
2014年初めには、グループ側もAML手続が著しく不十分で、支店とグループを含むすべての防衛線が機能していなかったと認識しました。それでも報告書は、その後の内部通報の調査や具体的リスクへの対応が十分でなかったと整理しています。
本記事は2018年9月19日付のこの報告書だけを一次資料とし、その後の刑事・民事手続や別の当局調査の内容は混ぜていません。
この記事の訂正
決済銀行との関係終了通知は2013年8月1日発効で通常3か月の予告期間を伴い、内部監査報告は同日付だったと訂正しました。ロシア中央銀行の懸念に関する税・関税の訳、支店とグループの経営執行組織の区別、通報主張の追加調査についての情報不足の範囲を明確にしました。内部監査・事業資料の会社側評価と報告書作成者の評価を区分し、警告とIT移行中止の評価を裏付けるp.8を追加しました。
