何があった?
暗号資産レンディング会社Celsius Networkは、顧客から暗号資産を預かり、預けた資産に対して報酬(Rewards)を支払うサービスを展開していました。2022年6月12日に出金、スワップ、口座間送金を停止し、同年7月に米連邦破産法第11章に基づく再建手続き(Chapter 11)を申請しました。
米連邦破産裁判所は2022年9月、Shoba Pillay氏を調査官(Examiner)に選任しました。Examinerは、Celsiusによる顧客資産の扱い、独自トークンCEL、顧客への説明、新規顧客の資産が既存顧客の出金に使われたかなどを調査し、2023年1月30日付の「Final Report of Shoba Pillay, Examiner」を提出しました。
報告書は、Celsiusが顧客に説明していた事業と、内部で実際に運営していた事業が重要な点で異なっていたと整理しています。一方、社内に「Ponzi Consultant」「very ponzi like」といった表現は登場しますが、Examiner自身がCelsiusをポンジ方式(新たな出資者の資金を既存の出資者への支払いに回す仕組み)と法的に認定したわけではありません。
この報告書で気になった9か所
CELの価格をめぐる社内メッセージ、経営陣自身の売却、AMA動画の扱い、流動性が不足する中での顧客獲得策など、外向けの説明だけでは見えにくい具体的な運用が数多く残っています。
固定PDFは本文文書476ページと31の添付資料を合わせた689ページです。以下のページ番号は、本文に印字された1〜470ページの番号で、添付資料の別のページ番号とは区別しています。本記事の日本語は報告書の付箋による翻訳・要約であり、公式日本語訳ではありません。
5000万ドル調達のはずが3200万ドル。残った1億1700万CELは焼却されなかった
Celsiusは、3億2500万CELを販売して5000万ドルを調達する計画を示していました。しかしExaminerによると、トークンの初回販売(ICO)と私募販売で実際に販売されたのは2億300万CEL、調達額は3200万ドルでした。報告書は関連記録に異なる金額があることも脚注で示した上で、この3200万ドルという数字を採用しています。
売れ残ったCELのうち433万CELは後に焼却されましたが、Mashinsky氏が所有するAM Ventureとのオプション契約向けに確保された1億1700万CELは、契約が完了しなかった後も焼却されませんでした。
元財務担当副社長のAshley Harrell氏は、売れ残りCELを焼却しなかったことでCelsiusは「自社のホワイトペーパーに違反している」状態になっていると社内メールで結論づけていました。
社内では、ICOが完全に売り切れなかったことを明らかにすればコミュニティが怒るのではないか、という議論も行われていました。
CEL購入は「利払いのためではない。それはコミュニティにそう言っただけ」
Celsiusは顧客に対し、市場からCELを購入する理由を、CELで支払う報酬に必要なトークンを確保するためだと説明していました。
ところが2021年3月、取引デスク責任者のJohannes Treutler氏は最高財務責任者(CFO)らとのSlackで、直近3〜4か月は毎週の報酬として支払う量より多くCELを買っていると説明しました。
続けて、そのCEL購入は「利払いのため」ではなく、「コミュニティにはそう説明していただけだ」と書いていました。
報告書は、CelsiusがCEL価格をどの程度支えていたかを顧客へ説明していなかったとしています。
目的は「買い逃す不安を利用した循環」を回すこと。CEL価格は「優れた宣伝手段」だった
CELをめぐる社内戦略は、単に報酬用のトークンを用意するだけではありませんでした。
内部Slackでは、CELの買いを含む戦略の目標について「keep the FOMO flywheel spinning(買い逃す不安を利用した循環を回し続ける)」と表現されていました。また、Celsiusが順調か知りたい人は他の指標ではなくCELを見る、という認識も共有されていました。
Treutler氏は「CELが高いほど、人々はCelsiusがまともな会社だと理解する」という趣旨を書き、別の幹部はCEL価格を「われわれの優れた宣伝手段」と呼んでいました。
Examinerのヒアリングでは、Celsius自身がCELの市場を作っていた、という説明も記録されています。
CEOがCEL価格への「一方的な措置」を求めた4日後、自分のCELを売った。会社側が全部買った
2021年1月、Mashinsky氏はCEL買い戻しのコストについて議論する社内Slackで、CEL価格について「unilateral action(一方的な措置)」が必要だと述べました。
その4日後、Mashinsky氏は自身が保有するCELを約44万ドル分売却しました。
Examinerによると、その約44万ドル分は、急激な価格下落を防ぐために置かれていたCelsiusの買い注文によってすべて購入されました。
この取引を受け、当時のCFOは、規制対象企業になろうとしている会社がしていることは「違法の可能性があり、間違いなくルールに適合していない」、と社内で懸念を示しました。
社内Slackには「顧客のUSDCで、社員の無価値なCELを買い取っている」
2022年になると、CELを扱う社員自身がその価値についてかなり厳しい表現を使うようになっていました。
4月の内部Slackで、暗号資産の運用担当者Dean Tappen氏は、創業者らが受け取った金額やCelsiusのポジションが外部に知られた場合の見え方について話しています。
その中で、「顧客のUSDCを使い、社員の無価値なCELを買い取っている」と書いていました。
USDCは、米ドルとの価格連動を目指すステーブルコインです。
同年5月の別の内部メッセージでも、CELの価格は「0」であるべきだ、現状のCEL保有分を売却できないので価値を0ドルと仮定すべきだ、といった発言が記録されています。
「ポンジ方式のコンサルタント」は冗談。翌年にはCEL購入を「非常にポンジ方式に似ている」と書いた
2021年1月、暗号資産の運用担当者Dean Tappen氏は社内メッセージで、自分の肩書きを「Ponzi Consultant(ポンジ方式のコンサルタント)」にすべきだと書きました。
Tappen氏は後にExaminerへ、これは深夜の会話での「poor joke(たちの悪い冗談)」であり、当時Celsiusがポンジ方式で運営されているという懸念は持っていなかったと説明しています。
しかし2022年4月には、顧客のステーブルコインを使いながら顧客へ返す暗号資産が不足していく状態でCELを買う運用を「very ponzi like(非常にポンジ方式に似ている)」と表現しました。
数週間後、CELを買う現金がどこから来るのかと聞かれると「users like always(いつもどおり顧客の資金)」と回答しています。Tappen氏はExaminerに、当時Celsiusは債務超過だったため、資金を使えば実質的に顧客資金を使うことになる、という趣旨を説明しました。
AMAの誤った説明を後から編集。視聴者が気づかないことを期待した例もあった
Celsiusは、Mashinsky氏が顧客の質問に答える「Ask Mashinsky Anything(Mashinsky氏に何でも聞く公開質問会、AMA)」をライブ配信し、録画をYouTubeにも掲載していました。
2021年5月以降、最高リスク責任者は、ライブ中の誤解を招く説明をYouTube公開前に編集する案を出しました。しかしMashinsky氏は、公開の遅れがコミュニティに不安・不確実性・疑念(FUD)を生むとして抵抗したと報告されています。
その後も社内では、AMAでの不正確な説明の一覧が共有され、一部は公開後の動画から編集されました。
Examinerは、ライブで聞いた人や編集前の動画を見た人に訂正せず、内部文書からは、編集された食い違いに視聴者が気づかないことを期待していた例も確認できるとしています。
1 CEL持てばCEL建て報酬10%増。利率引下げを求めたCFOには「自分たちの担当範囲を守れ」
2022年3月、CelsiusはCELで報酬を受け取る顧客向けの条件を変更しました。それまでは10%の追加報酬を得るためにウォレット残高の少なくとも5%をCELで保有する必要がありましたが、新制度では1 CELを持っていればCELで受け取る報酬が10%増えるようになりました。
社内では、この変更について、CELで報酬を受け取り1 CEL(当時約2ドル)を保有する顧客なら、CEL建ての報酬に10%の追加分を得られる仕組みだと説明されていました。
無料の交換機能があったため、顧客は追加報酬を受け取った後にCELを別の暗号資産へ交換するようになりました。
同年5月、CFOのRod Bolger氏がCELの報酬率引下げなどを求めると、Mashinsky氏は「チームに自分たちの担当範囲を守るよう伝えろ」と伝え、マーケティングの助けは要らない、自分が最初の200億ドルと同じように数十億ドルを持ってくる、と述べました。
BTCの顧客債務を賄う流動性は30%、ETHは21%。それでも新規顧客1人へ1000ドルを申し出た
2022年5月27日時点で、Celsiusがすぐに利用できるBTCは顧客へのBTC義務の30%、ETHは21%を満たす分しかありませんでした。CELと保管サービス分の資産を除いた集計では、7日以内に利用できる資産が暗号資産の債務をカバーする割合も、2月28日の49.5%から5月27日の33.3%へ低下していました。この集計には、ステーブルコインの借入金を返済しなければ利用できない担保資産も含まれていました。
それでもCelsiusは新しい預け入れを増やす施策を続けました。5月27日のAMAでは友人紹介の報酬を案内しています。
その2日後、Mashinsky氏は、その週の新規Celsius顧客のうち1人に1000ドルを支払うと申し出ました。
6月12日、Celsiusは出金などを停止しました。
報告書が指摘した背景
Examinerが繰り返し示しているのは、Celsiusが外部へ説明していた事業と、内部の資金運用やCELの扱いとの違いです。CelsiusはCELを報酬に使うトークンとして説明する一方、市場で少なくとも5億5800万ドル分のCELを購入し、経営陣が個人保有のCELを売る場面では会社側の買い注文がその売却を吸収することもありました。
また、報告書によると、Celsiusは顧客資産から得る収益だけでは約束した報酬を賄えず、2018年から2022年6月までの累計で、顧客への報酬支払い義務は顧客預かり資産から得た純収益を13.6億ドル上回っていました。
社内の「Ponzi Consultant」「very ponzi like」という言葉は強いものですが、これは社員の内部発言です。Examinerは、2022年6月9日から12日の間、新規顧客の預け入れを顧客の出金に直接使った事例も確認していますが、Final Report自体はCelsiusがポンジ方式だったとの法的結論を出していません。この記事でも、その区別を維持しています。
この記事の訂正
本文の印字470ページと、前付・31の添付資料を含む固定PDF全体689ページを区別しました。CEL購入についての発言は直前3〜4か月の話とし、余剰購入だけという英語版の限定を除きました。社員のCEL買い取りと5月の価値評価の参照を明確化し、以前の5%保有条件はCELで報酬を得るためではなく10%追加報酬の条件と訂正しました。7日以内の流動性は詳細表の債務カバー率49.5%から33.3%を採用し、対象外のCEL・保管サービス分を明示しました。1000ドルは新規顧客1人への申し出とし、非自明な英語の訳と証言区分、原典SHAの言語間対応も整えました。
